カテゴリー「円谷英二の特撮」の記事

日本の特撮は世界一だ!!!

・・・・・と大きな声でお叫びになった御仁がおられた。

 今から35年ほど前だったか、日本テレビ「ほんものは誰だ」という土居まさる司会の番組でのことである。

 その、プログラムの内容は、3人の紹介者のうち、だれが特撮のエキスパートであるかを当てるものであったが、正解により素性が明らかになったその特撮スタッフが、日本の特撮の一例として・・・

 (多分にそれは、いかに日本の特撮技術がスゴイかという意思表示を感じさせた)

 ・・・スタジオでミニチュアをセットし披露したデモンストレーションは、円谷特撮で「ゴジラ」から延々と行われてきた以下のお馴染みのカットの再現であった。

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↑1954年、「ゴジラ」

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↑1956年、「ラドン」

 このミニチュアの戦闘機に火薬を装填したミサイル(ロケット弾?)を発射させ、ワイヤーでガイドさせる特撮が、デモとして再現、紹介されていたのだが、これが意外であった。

 はっきり言って自分は、円谷特撮映画を見始めた少年のころから、この特撮が、今さら、これ見よがしに再現するほどにスゴイ特撮だとは感じていなかったからである。

 いや、それどころか、飛行機のミニチュアの造りと撮影は雑でオモチャっぽいし、ミサイルをガイドするワイヤーははっきり見えてしまっているし、ミサイルの発射・飛行方向がランダムでいい加減で動きがチョコマカしているので、円谷特撮のなかでも自分にとっては見たくない、嫌な特撮カットだったのである。

 この、当時、既に「スターウォーズ」や「未知との遭遇」のsfxが巷で話題になっているときに、番組に出演した日本の特撮スタッフは、過去の使い古した特撮技術を「ゴジラ」から四半世紀近く経ったテレビ番組のスタジオで、相変わらず雑なミニチュアモデルを使い、ワイヤーを張ったミサイルを「パン・パン・パン」と飛ばして見せてくれたのである。得意げな顔で・・・。

 当時、自分は高校生だったか浪人生だったかは憶えていないが、これにはあきれてしまい、顔が赤くなるのを感じたことだけは憶えている。

 「円谷特撮でも他に優れたものがあるではないか・・・例えば高圧ガスの噴出を利用した爆発水柱など・・・、どうして今さら、こんなのを・・・・」という心境だった。

 そして、番組終了間近、回答者席のゲストの一人がこう叫んだのである。

 「日本の特撮は世界一だ!!!」・・・・

 こう、大きな声で、お叫びになった御仁は、実は桂小金治さんであった。

 「ああ、日本人の標準的な特撮というものの見方、評価はコンナものなのかな」と、当時自分は感じた。と同時に「井の中の蛙、大海を知らず」という言葉も頭をよぎった。

 私は桂小金治さんになんの遺恨もない。たぶん、ああ叫ぶよう、放送作家が番組の台本に書いたのかもしれない。

 最近、松竹「抱かれた花嫁」を観て、寿司職人を飄々とこなす小金治さんの演技力に感嘆して、もっと小金治さんの出演している映画を観たいと思っている。

 

 

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君の名は 第一部

円谷英二の特撮、作品AS-4

 1948年から円谷はGHQにより公職追放を受け東宝を辞職、その後「円谷特撮技術研究所」を東宝撮影所内に設立した。1954年、松竹から依頼を受け既に松竹に移籍していたかつての東宝での同僚、川上景司とともに松竹「君の名は」の特撮・合成シーンを担当した。

 B-29の爆撃によって破壊されるミニチュア特撮による東京の街並みと、逃げまとう市民を合成で配した構図は後の作品「ゴジラ」の特撮を彷彿とさせる。この作品の特撮は「ゴジラ」の前哨といってもいい。

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↑市民の目から見たB-29。市民がゴジラを怯える視線と同じ。

 尚、実際にはこんな低空を飛行していた訳ではないだろうが、心理的にはこのように近くを飛んでいるように見えたかもしれない。恐怖感をよく表現している。B-29のミニチュアモデルの撮影にはクローズアップのカットが無く、円谷特撮にありがちなオモチャ然としたモデルを見なくてすむ。遠くから仰ぐ大型航空機を思わせる堂々とした飛行である。

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↑ビルの炎上。ローアングルによる人の立ち位置目線の撮影。この映画に関しては地上200メートル付近にカメラを固定した「神様目線」のカットは無い。私の好みの特撮。ビルの中身がスッカラカンに見えるのは残念。

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↑この爆撃カットは24コマ撮影で、この映画唯一のオモチャ然となってしまったカットである。円谷特撮特有のエラーである。以後、これを私は「24コマエラー」と命名したい。

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↑実写といってもいい民家の炎上。風をあて火炎を右方向になびかせている。電柱がミソ。

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↑遠景の特撮炎上と手前の逃げまとう出演者のセット撮影を合成。映像合成にはブレがあるのだが、効果満点。

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↑数寄屋橋との合成カット。実写と見間違える。

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ハワイ・マレー沖海戦、その3

円谷英二の特撮、AS-3

↓パイロの特撮シーンが始まる。なにか燐の混ざった火薬のような独特の燃焼。火の粉の飛び散りが速いので、やはり撮影は5倍速位にして実写感を増してほしい。オープンセットによるミニチュアは長期撮影で風雨に耐えられるよう石膏などで頑丈に造られている。従って、爆破シーンでは飛び散る破片が大きくなって雑な感じが否めないが、これは致し方ない。

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↑固定カメラによる高い位置からの「神様目線」撮影。スタジオ然としている。もっとローアングルの「人間目線」で見せてほしい。

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↑私が最も「記録フィルムだと信じて疑わない」と感じたカット。左側下に戦闘機が飛行場施設を掠めるように的確な速度で飛行していて実写感タップリ。見事である。

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↑黒煙の演出が素晴らしい。ただし、戦闘機の反転上昇速度が速すぎる。もっとユックリ優雅に・・・。

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↑マレー沖海戦、イギリス艦船攻撃の特撮シーンは海軍省の要請により9日間の突貫撮影で行われた。特に目を見張る描写はない。以前、別の海戦映画で、中野特撮による本編に採用しなかった未使用シーンの特典映像を観たが、それに近い特撮であった。

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ハワイ・マレー沖海戦、その2

円谷英二の特撮、AS-3

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↑トラ・トラ・トラ・・・雷撃機コックピットから望む米軍艦船。

 この構図は20世紀フォックス「トラ!・トラ!・トラ!」でマネされている↓。 尚、円谷も後年の作品「太平洋の嵐」にて「ハワイ・マレー・・」と同じ構図のシーン・カットのいくつかをリメークしている。

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↓移動クレーン撮影による爆撃シーン。カメラを固定して撮影せず、あたかも航空機から眺望したように見せる円谷の特撮テクニックはここで完成された。まさに実写と見間違えるカットの一つ。ここではハイスピード撮影によるフィルムのブレが偶然発生していて、これは逆に記録映画撮影のような効果を出している。カメラを小刻みに振動させれば、もっと実写に近くなるのだが。

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↓艦船のスケールに合わない巨大な爆破水柱は円谷本人も失敗と認めている。火薬の設置深度を浅くすれば垂直に細長い水柱が出来る。20世紀フォックス「トラ!・トラ!・トラ!」の爆破水中の火薬は浅く設置してあるのか細長くなっている。

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↓コックピットからの眺望を模した横移動撮影。不完全な翼の合成はむしろ無いほうがよかった。また、繰り返すがカメラを振動させればより実写記録フィルムに近くなっただろう。爆破のタイミングが良い。

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↓石油施設でのパイロシーン。人員を載せたトラックの通過がグットタイミング。ガソリンなどを使ったファイヤーボールのバイロテクニックはこの時期まだ無い。尚、たしか戦史によると石油施設への攻撃は無かったはずであるが。

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↓型式不明の航空機による爆弾投下。私がこの映画で最も気に食わないカットである。

 例によって照明の光がモデルに下品に反射していて、素人が家でプラモデルの写真を撮ったような映像になっている。その他の急降下爆撃カットも風防ガラスに照明が反射し、安いプラモデルにしか見えない。又、ハイスピード撮影でないのか、あるいは撮影の回転が遅いのか、爆弾の落下速度が速すぎてポロッと落ちてしまい、これまたオモチャ然としている。この種のエラーは円谷監督作品のみならず、後々の東宝特撮まで続く。

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ハワイ・マレー沖海戦、その1

円谷英二の特撮、作品AS-3

1942年、東宝、白黒スタンダード、115分

監督- 山本嘉次郎

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 戦中の情報不足のなかで制作された円谷特撮でも重要な位置に存在する作品。本編と実写映像と特撮のつながりは相変わらず自然であり、特撮と知りつつも見応えがある。

 尚、よく「実写と見間違える」または「すべて実戦の記録フィルムだと疑わなかった」という字句を目にするが、少なくとも私自身はそういう場面は3カット位しか無かった。

↓荒波に揺れる航空母艦。

 最初の特撮シーンであるが、ここで円谷は艦船を直接揺らし、カメラを喫水線から上の、あたかも空中に静止しているように撮影するという「神様目線」で捕らえている。ミニチュア撮影では描写が難しい波・水しぶきを見せないという苦肉の策かもしれない。したがって荒れた海面も見えず想像するしかないうえに、艦船のピッチングも速いのでミニチュア然となってしまった。

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 このシーンには航空機が着艦に失敗し、甲板から墜落するカットがあるのだが、ミニチュアが小さいのみならず、例によってハイスピート撮影が適合しておらず、ポロンとオモチャのように落下してしまうという残念な映像がある。この映画を若かりし頃大いに期待しながら初見した当時の私は、このドッショッパナのまずい特撮で大変ガッカリしたものだった。

↓雲間から見える真珠湾。ミニチュアの上のガラス板に綿で雲を再現し撮影。たいへん効果的で印象のある特撮カット。ただし、現代の超微粒子のフィルム、あるいはCCDと性能の高いレンズで撮影するとアラが出てしまう特撮である。

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↓ミニチュア航空機とカメラを固定し、バックの山並み・大地を動かすという円谷の独創的アイデアによる撮影。2.3機、ちょっと吊りだと分かる揺れ方をしていて残念。

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↑真ん中の航空機1機は進行方向に対して機体ピッチ角が下がってしまいおかしなことになっている。修正して撮り直すべきカット。円谷は観客がNGだと分かるフィルムを採用してしまうことがある。これがその例と言える。

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↑スモークで遠近感・空気感を強調し、仰ぎで捉えた迫り来る航空機。

 手前に向って速すぎない速度で・・・(円谷はしばし、プロペラ機の速度をジェット機の速度にさせてしまう)・・・、ワイヤーワークは手振れによる揺れも無く滑らかで実写に近い素晴らしいカット。風圧で樹木が揺れるという効果を出しているが、ちょっと木の揺れが速くミニチュアっぽい。尚、ハワイの荒れた山岳周辺にはあのような針葉樹らしき樹木は植生していないので、これは映画のウソというやつである。ただ当時のスタッフがハワイの地形をよく知らなかっただけであるが。

 

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加藤隼戦闘隊

円谷英二の特撮、作品AS-2

1944年、東宝、白黒、スタンダード、109分

監督- 山本嘉次郎

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 空中戦でのワイヤーワーク、ミニチュア爆撃シーンで鑑賞に堪えられるミニチュア特撮を見せてくれる。ただし、「実戦と見間違える」という他の評価を目にするが、私には全てのシーン・カットにおいて本モノと見間違えることは無かった。夜間飛行シーンが魅力的で、月夜に照らされる隼戦闘機と雲の表現が秀逸である。

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↑多分、綿で工作された雲の間を、翼端灯を点けて旋回する隼。レンズやフィルムの描写力不足が幸いし、かえって本モノらしく見える。幻想的で美しい。

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↑円谷特撮でも、もっとも美しいカット。

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↑空中戦で墜落する敵戦闘機。撮影では↓のように燃えたミニチュアを吊り、右から左方向へと水平に移動させ、その映像を90度転回させ落下のように見せている。円谷テクニックのひとつ。

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 ↓この映画の特撮で注目すべき点はラングーンの敵飛行場爆撃パイロシーン。精巧なミニチュアと、極めて適切なハイスピード撮影(4倍と推測する。)により、迫力ある爆発パイロを見せてくれた。円谷はハイスピード撮影において、現場で即興的に回転速度を2倍か4倍に決めていたそうで、もし、このシーンを2倍で撮影していたら、ミニチュア然の失敗映像となっていただろう。

 尚、デレク・メディングスはハイスピード撮影の倍率を5倍から10倍で行っている。このカットのミニチュアサイズだと、やはり4倍から5倍が適当だと思う。

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↑逃げまとう兵士は、この映画で開発されたトラベリングマット合成による。

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↑格納庫内から捉えたパイロカット。迫力満点。

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↑砕け散るドック。この時期、円谷はガソリンなどによる火球炎上爆発の描写はしていない。そのアイデアが無かったか、あるいはスタジオ撮影だと防火上問題だった為かもしれないが、ちょっと物足りない。

追記:再見したところ、スタジオではなくオープンセット撮影だと思う。

↑2分20秒から爆撃シーンが始まる。連続するパイロカットは息を呑む。

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南海の花束

円谷英二の特撮、作品AS-1

1942年、東宝、白黒、スタンダード、106分

監督- 阿部豊

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 飛行機マニア垂涎、九七式飛行艇の鮮明な実写映像が観られる貴重な映画。と同時に円谷特撮・演出の原点を見いだせる作品。

 円谷は劇中の約40カットのスクリーン・プロセスからミニチュア特撮までを任された。

 映画の脚本には、飛行機が墜落する原因などもいっさい詳細に書かれておらず、それらのアクション、カット割もすべて円谷に一任された。

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↑嵐の中を着水する一五式水上偵察機?。着水スピードが速く実写感に不足があるが、ミニチュアの動きがギクシャクしておらず、滑らかな操演。尚、同じ構図が後の「青島要塞爆撃命令」にも出てくる。

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↑偵察機は停泊するためエンジンを廻しながら反転。ミニチュアは小さいがハイスピードカメラの回転が適切で実写感がある。

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↑嵐の中を水平飛行する九三式中間練習機?。カメラは飛行機を追って手前の椰子の木へとパンする。飛行機までの距離感が分かる演出。尚、同じ構図・アングルの実写映像があるので、この時期から円谷は実写と特撮映像のつながりを大事にしていることが伺える。

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↑海面に着水、砕け散る練習機。バックの暗雲と波しぶきの演出がすばらしい。ミニチュアが小さすぎるのが難点。爆薬で砕くわけにもゆかず、なかなか難しいカット。

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↑手前に向ってゆっくり(プロペラ飛行機に見合った速度で)堂々と飛行する九七式飛行艇。この映画でもっとも素晴らしいカット。ヒコーキマニアも納得するだろう。

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↑海面への落雷。2コマを使って2度合成されている。

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↑落雷により水しぶきが上がる。これは映画のウソで、実際はありえないことだが、落雷が原因で墜落を匂わせる演出。名シーンといってよい。

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↑旋回する飛行艇。ワイヤーワークではオペレーターの手の震えが禁物であるが、このカットも機体がフラフラと揺れてなくて実に滑らか。これも素晴らしいカット。

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↑落雷のトラブルにより炎上する飛行艇。アップシーンにもかかわらず、ミニチュアが小さく、ハイスピート撮影でないのでミニチュア然となってしまったカット。こういうエラーを円谷は後々まで続けてしまう。

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↑やはりミニチュアが小さい。これはスタジオの大きさにも関係してしまうので止む終えないことだろうか。炎上アップのカットのみ拡大サイズを作るべきだったと感じる。

 尚、着水・墜落シーンやカットは実写映像、特撮とも左から右へと機体が動き、画面の統一が図られている。実写ラッシュを映写するスタジオで、特撮映像との繋がりをイメージしている円谷の姿が想像される。

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少年の目から見た円谷特撮、その3

円谷英二の特撮、NO,3

「スタジオ然の照明」

Dscf0002_medium このカットは東宝、昭和43年の「連合艦隊司令長官、山本五十六」の一式陸上攻撃機、飛行シーンからだが、ミニチュアモデルの表面に、スタジオの照明の光が反射して、実写感をスポイルさせてしまっている。それに大気感、流れる空気を全く感じることができない。

この映画を観たのは、私が高校生のころであり、しかもテレビ放映のものであるが、現在のテレビより明らかに不鮮明な画面で観たのにもかかわらず、このスタジオ然としたミニチュアの映像には唖然としたのみならず、どうしてこういう撮影をしてしまうのかと、怒りを感じたものだった。

円谷特撮では、この映画以前から(つまり小学生の頃から)、飛行機やロケットのモデルの質感が、どうもプラモデルの材質のように表面がツヤツヤしていて、照明の反射光が目立ち、オモチャ然に見えると感じていたものだが、特に、この一式陸攻のモデルの撮影はひどいと感じた。

どうして、こうなるのだろうか、モデルの材質にもよるだろうが、ミニチュアの細かい操演をする場合、どうしてもスタジオの屋内で行うことになる。そうすると当然、ライトによる照明を使うことになるが、もっと太陽光的演出ができないものだろうか。

このようなマズイ照明の当て方は、円谷氏以降の特撮映画、「首都消失」のミニチュア飛行シーンなどでも頻繁に見られたもので、何ら改善・工夫が成されていなかった。

ミニチュアモデルを使った撮影は、太陽光下で行へば、圧倒的実写感が得られるもので、過去の円谷特撮の例では、「世界大戦争」での東側の爆撃機を下から仰ぎで撮影したオープンの撮影シーンは、実写と見間違える優れた映像だった。

できることなら、こういう撮影は自然な太陽光を使って撮影するべきである。

しかし、スタジオ内で、人工光の照明により圧倒的実写感を演出した映画がある。

「ライトスタッフ」がそうだ。

Dscf0004_medium Dscf0005_medium ロケット機、X-1がB-29から離脱するシーンは、小さなスタジオで人工照明により撮影された。この自然な光とモデルの実機的存在感はもうしぶんない。

この「ライトスタッフ」では、もう一つ、絶対に特撮とは気がつかない優れたカットがある。

Dscf0007_medium このカットがそうで、飛行中のB-29と落下するロケット機の存在感はもう完璧であり、私は完全に実写フィルムを使ったものと思っていたが、ミニチュア特撮である。この霞んだような大気感のすばらしさ。それにカメラを振動させ、あたかも別の撮影機からエアリアル撮影したかのような演出のセンスは見事である。

こういう優れた撮影センスは、日本ではミニチュア特撮よりも、最近のVFX映像でようやく観られるようになった。野口光一氏の映像などが該当する。

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少年の目から見た円谷特撮、その2

円谷英二の特撮、NO,2

「なぜ、24コマ撮影なのか」・・・

少年のころの私は映画による円谷特撮、テレビのサンダーバード特撮、L.B.アボット特撮での爆発燃焼シーンを観るのが大好きだった。

こういうミニチュア撮影では、撮影するカメラのフィルム送りは、本編撮影の1秒間24コマではなく、3倍・5倍・10倍と早く送り、縮小したミニチュアのサイズに対して、物理的に妥当な実写感覚を得るようにするのが常識である。

つまり、物が爆発したときの火球はゆっくりと上昇するし、飛び散る破片も水しぶきもゆっくり動く。これには「遅すぎる」ということはなく、極端にスローモーな動きとなっても、それなりに迫力があるものだ。(テレビ「マイティジャック」でのMJ号離水シーンなど)

小学校4年生のときだったか、私はようやく夕方のテレビ再放送で「ウルトラQ」や「ウルトラマン」を全編鑑賞することが出来た。これらの番組が始まった当時、私は小学校2年生であったが、日曜夜7時が放送時間ということで、その時間帯は親爺がNHKのニュースを独占したためリアルタイムで見られなかったことによる。(親爺が怪獣嫌いだということも原因の一つ)

それら円谷プロの特撮番組を観ていて、当時「オヤ?」と感じた。巨大な怪獣やヒーローがバトルするシーンでは、ハイスピード撮影ではなく、24コマ撮りになっていたことだ。バトルシーンの前の怪獣登場ではハイスピード撮影であるのに。

そのバトルシーンでは、石油タンクが爆発したり、ビルが蹴倒されるのだが、見ていると燃え上がる炎はただ「ポン!」と瞬時に上昇し、ビルは「ポロッ」とアッケナク崩れ、踏み潰される家は「クシャン」となるだけで全く実写のように見えなかった。

これはどうしたものかと子供心に感じた。もっとユックリとした迫力ある破壊や燃焼・爆発を見せてほしいと思った。もったいないのではないかと思った。ウルトラマンと怪獣のスピーディーな動きを見せるためなのだろうか。ユックリと動くとバトルがドンクサク見えるためだろうか。

これは、ハイスピード撮影はフィルムを大量に消費するので、予算に制限のあるテレビ番組だけの止む終えない事情によるものだと解釈していたが、後に映画「キングコング対ゴジラ」「モスラ」などの特撮でも、同様にバトルシーンでは24コマ撮影のシーンがあり、どうしてこうなのかと驚いたものである。

Dscf0024_medium ハイスピード撮影されず、24コマで撮られたコングとゴジラのバトルシーン。燃えあがる火災は、まるでスタジオで焚き火を焚いているようにしか見えない。

後の富士山バトルでもチョコマカした24コマ撮影がある。

ただし、円谷特撮の怪獣バトルでは、すべてのシーンが24コマ撮影ということもなく、「サンダ対ガイラ」などでは迫力のあるハイスピート撮影の格闘シーンもあり、私は円谷特撮での、このムラのある演出に子供のころから疑問を感じている。

、「ゴジラの逆襲」では怪獣のバトルシーンを24コマ撮影どころか、一部「コマ落とし」撮影をやってしまい、ネズミ同士が闘っているようなチョコマカした映像を見せてしまっている。これは明らかに失敗である。

追記: この件については、カメラマンがコマ送りの設定を間違えて撮影してしまったという解説があるが、コマ落とし撮影とハイスピード撮影ではカメラの作動音・・・(ハイスピード撮影では、カメラから「ジャー」という大きな音が出る)・・・がまるで違うので、撮影監督(カメラマン)と撮影助手の二人の人間がその違いを気が付かないわけが無く、言い訳の説明にすぎない。

この「キングコング対ゴジラ」での最も優れたミニチュア特撮映像は、麻酔によって倒れたコングと国会議事堂周辺をヘリからの俯瞰移動で捕らえたもので、ほんの2カットの一瞬のものだが、ほんとうに実写と言ってもよく、円谷特撮でも最高のシーンの一つである。

Dscf0025_medium この細かいミニチュア照明のすばらしいこと。少しスモークが焚いてあるのか、空気感のあること。車両のテールランプやスポットライトなどの演出は、後年のダグラス・トランブルの特撮を彷彿とさせる。またクレーンのカメラが微妙に揺れていて、ヘリからの映像を思わせ、実写感を増している。

Dscf0027_medium ライトをつけた車両の動きなど実写そのもの。

この、あたかも航空機で撮影したかのような、クレーンを使った俯瞰移動撮影は「ハワイ・マレー沖海戦」来から、円谷特撮の優れた映像テクニックの一つである。

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少年の目から見た円谷特撮、その1

円谷英二の特撮、NO,1

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私が初めて円谷特撮を目にした映画は、「宇宙大戦争」だったと思う。この映画は昭和40年ごろから、だいたい毎年の正月番組としてテレビ放映されていた。SF好きの私の親爺は、必ずチャンネルを合わせてくれて、おかげで円谷特撮のすばらしさを知ることが出来た。

この映画の優れているところは、「地球防衛軍」に続く、怪獣の出てこない本格的なSFであることで、大の大人も、科学(月ロケットの反転着陸など)好きの子供もそろって楽しめる内容であることだ。特撮では宇宙人の円盤からの吸引光線による建物の破壊が一番の見もので、毎回、このシーンを楽しみにしていた。

また、その他、見所が盛りだくさんで、まず月までのロケットの行程。月世界でのナタール基地の探索(月面車のメカ)、ナタールとのバトル、月からの脱出。これだけでも少年には十分満足だったものだが、さらに地球に還ってからの大気圏外でのドッグファイト(光線の描写)、ナタールの地球施設への攻撃、大気圏内での攻防戦と、盛りだくさんの内容で、同じ東宝映画でもSF部門としてはまさに、「カツ丼の上にウナギの蒲焼とステーキを乗せてビーフカレーをかけた」と言われる黒澤明の「七人の侍」に匹敵する映画だと思う。

ただ、ナタールによる隕石魚雷の地球攻撃での、ニューヨークの摩天楼や、精巧に作られた金門橋などの破壊などは、撮影に大気感、空気感、遠近感がなく、スタジオ然となってしまったのが残念で、子供心にも、箱を並べたような高層ビル群が、爆風でコトンと傾いてしまったり、オモチャ然の小さな車が動いている吊橋は、「本モノを想像できないな」と感じたものだった。

Dscf0008_medium Dscf0009_medium この大気感、空気感がないということが、円谷特撮では、しばしば発生する難点で、せっかく作った精巧なミニチュアが、あたかも手を伸ばせば触れるように見えたり、あるいはスタジオで撮影見学でもしているように見えるミニチュア映像が、カットもされず流されてしまうのだった。

これは、少しスモークを焚いてミニチュアを霞ませ、遠近感を出すという、僅かな手間で済む基本中の基本を抜いてしまったことによる重大な誤りではないだろうか。

この誤りは、後の作品「世界大戦争」でも、ウエハースで造られたパリやモスクワの都市のミニチュアが、核ミサイルにより爆破されるシーンで、再びノースモークで撮影され、ミニチュア然とさせてしまうという同じ失敗で繰り返えされている。

ただし、円谷特撮では、すべてのミニチュアシーンがノースモークで撮影されているかというと、そうでもなく、効果的に使われているシーンもあり、私はこのムラのある演出が今でも不思議である。

このスモークによる、遠近感、ミニチュアの巨大感を演出する天才は、ダグラス・トランブルで、特に「ブレードランナー」における夜間の都市などの描写は、スモークによる「霞み」で驚異的な実写感を与えている。(ミニチュアも精巧で、照明や電飾も優れているのだが)

Dscf0013_medium この俯瞰による撮影のミニチュアビル群は、スタジオでは斜め水平に組みつけてあり、実はサンダーバード的、極小ミニチュアサイズで、画面に写っている範囲は約1メートル四方のものにずきない。この遠近感、高所感が素晴らしい。

中子真治氏は、著書「SFX映画の時代」で、こう記述している。

--- トランブルが好んで使うテクニックは、スモーク・ルームである。彼は「多くのSFXピープルが犯す間違いのひとつは、クリアーな場所でミニチュアを撮影することだ」、と指摘している、スモークなしでは、ミニチュアに大気が作り出す淡いパースペクティヴを与えることはできない。---

円谷氏が、どうしてしばしば、クリアーなマッサラな空間でミニチュア撮影したのか、私には少年のころから現在にいたるまで理解できずにいる。

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