カテゴリー「邦画メモ」の記事

博士の愛した数式

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邦画メモ、NO,53、NHKBS

2005年、アスミック・エース、117分

監督- 小泉尭史、 撮影- 上田正治、北澤弘之、 音楽- 加古隆

出演- 寺尾聰、深津絵里、吉岡秀隆、浅丘ルリ子、井川比佐志、頭師佳孝

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小泉監督の作品を観るのはこれで3本目だが、この作品も含め、すべてホノボノとした安らぎを感じさせるものだった。

映像や構図はフィックスが多く、手持ちカメラ撮影の場面は無かったと記憶している。画面は安定していて、それもほとんど望遠レンズで撮影。

どこかで観たような懐かしい構図が多く、黒澤監督の晩年の作品を思わせるが、これは小泉監督が黒澤組にいたためだろう。今は亡き黒澤監督作品の雰囲気を再び感ずることができてありがたい。

シングルマザーである若い家政婦の過去はまったく語られず、博士と義理の姉との関係もヤンワリと触れられるだけで、お終いまで平行線であるが、これも数学的と言える。

オイラーの式は聞いたことがあるが、友愛数のことは全く知らなかった。勉強になるが、私の世代を教えた中学や高校の教師が、いかにつまらない授業をしていたかが分かる。ルート先生のようなオモシロ数学小話は一切してくれなかった。

その後、博士が亡くなったという結末ではないが、初めからお終いまで、加古隆氏の音楽はレクイエムのように哀しいものだった。

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黒い画集・あるサラリーマンの証言

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邦画メモ、NO,52、NHKBS

1960年、東宝、シネスコサイズ、白黒、95分

監督- 堀川弘通、撮影- 中井朝一、音楽- 池野成

出演- 小林桂樹、中北千枝子、原知佐子、織田政雄、西村晃、菅井きん、江原達治、児玉清、中村伸郎、小池朝雄

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堀川監督は「七人の侍」ではチーフ助監督を務め、黒澤監督から「デコスケ!」と怒鳴られ鍛えられた人だけあって、実に緻密でぬかりのない作品に見えた。

撮影では黒澤監督のように、納得のいくまでネバルので、やはり撮影期間や予算をオーバーしてしまうこと(たしか「あすなろ物語」でのエピソード)があったようで、一時、サッサと撮影をこなしてしまう成瀬監督の助監督につけられ、その要領を学ばされたようである。

この映画では脚本は橋本忍であり、スタッフにも黒澤組がいて、黒澤作品のように妥協のない展開と映像で見ごたえがあった。

毛織物会社の管財課長を勤めるサラリーマンである42歳の小林桂樹の月給は、昭和35年当時、5万7000円、ボーナスが年40万円。今なら年収1000万というところだろうか。同じ時代のサラリーマンを小林桂樹は「江分利満氏の優雅な生活」で演じているが、その時の月給は4万円であったので、大分恵まれている。

そう。この映画はサラリーマン江分利氏の別次元、ダークサイドのお話。

小林桂樹さんのキスシーンを初めて見た。私の好きな俳優さんであるが、いつまでもお元気でいてほしい。

織田政雄という俳優さんも地味だが、セリフのカツゼツもよく、声がよく響き、芝居のうまい俳優さん。

若かりし頃の小池朝雄さんも存在感あり。あのコロンボの声でチンピラを演じている。

追記: 劇中、淡々と流れる、ギターかリュートを使ったバロック調の音楽は、池野氏のオリジナルだろうか。それとも有名作曲家のものだろうか。たいへん印象に残っている。

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人情紙風船

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邦画メモ、NO,51、NHKBS

1937年、P.C.L、白黒、126分

監督- 山中貞雄、 撮影- 三村明、 音楽- 太田忠

出演- 川原崎長十郎、中村かん右衛門、山岸しづ江、霧立のぼる、

加東大介、同じ源七親分の子分として河野秋武が出演している。

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天才、山中監督の遺作であり、傑作のこの映画をとうとう観る。

まず、画質・音質は70年前の映画としてはマアマアで、昭和27.8年頃の映画のレベルに近いが、黒澤映画の昭和20年代の作品よりは遥かに見やすく聴きやすかった。フィルムの保存状態が良かったのだろう。

また、戦前・戦中の映画にありがちなフィルムの逸脱や検閲によるカットが無いようで、映画の展開はシーンの前後に説明不足のおかしな部分が無く、完璧だと言える。これはあの当時の映画を鑑賞するには、初めてといえるほど珍しいことだ。

長屋のたたずまいがいい。狭い長屋の通路や家の中など、大人や子供を入れた人物の配置が完璧だ。オープニングはまるで落語の世界で、観客を江戸時代へと引き込む。セリフは江戸弁のマキ舌でイキがいい。出演している俳優さんは前進座という劇団のプロで、山中監督も安心して演出したのかもしれない。

前進座というのは調べてみると、なかなか演技指導に厳しい集団のようだ。

御通夜では大酒飲んでドンチャン騒ぎが愉快だが、自分もあの仲間に加わりたいと思った。この気持ちは黒澤監督の「どん底」の馬鹿囃子を観ていても起こったものである。

黒澤監督は助監督時代、山中組の撮影を手伝いに行ったそうで、なるほど、後年の黒澤作品へ影響させた箇所を随所に感じた。

それは、「姿三四郎」、「どん底」、「赤ひげ」などであろうか。黒澤映画定番の土砂降りのシーンもそうだろう。

また、日本間のローアングルの撮影は小津作品を連想する。山中と小津は無二の親友だった。

そういえば、小津作品「長屋紳士録」でも、久しぶりにいい酒が手に入ったというので、長屋連中総出で、ドンチャン騒ぎをするシーンがある。

撮影はハリウッド帰りのハリー・三村だが、この人は決してパラマウント映画のような大クレーンやレールを使った派手な移動撮影はやらない。ほとんどフィックスの構図で、実に素直な画面作りをする。長屋通りのパンフォーカス撮影が粋。この人は「姿三四郎」でも活躍した。

長屋の隣通しの店子が、いつの間にか、ある事件でつながっているという脚本も素晴らしい。

この映画はもう二度・三度観なければ。

またこの天才の映画を「人情紙風船」しか観ていないというのもチト、寂しい。

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真空地帯

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邦画メモ、NO,50、DVDレンタル

1952年、新星映画、スタンダード、白黒、129分

監督- 山本薩夫、撮影- 前田実、音楽- 團伊久磨

出演- 木村功、利根はる恵、神田隆、加藤嘉、下元勉、西村晃、佐野浅男、岡田英次、金子信雄

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戦後のGHQによる規制が無くなり、戦争物作品が制作できるようになって、それまで表現しようにも出来なかった軍隊への憤懣を、いっきに爆発させて出来たような映画。

戦争から7年しか経っていないので、ほとんどのスタッフ、役者は軍隊の内部状況を経験済みである。したがって描写はとことんリアルであり、すさまじい。

現在の若者が、ろくすっぽ取材・時代考証もしないで造る甘い戦争物映画など、この映画を観たら、ちゃんちゃら可笑しく観ていられない。

ジャニーズ系のジャリタレをひっぱり出してきて、長髪のまま、まともな敬礼も出来ない、軟弱な姿態の兵隊にしたてあげる映画製作者・スタッフはこの映画を観て猛省していただきたい。

陸軍内務班の実態をさらけ出した映画第一号ではないだろうか。後の映画「二等兵物語」、「陸軍残酷物語」、「兵隊やくざ」などは、確実にこの映画の影響にある。

旧日本陸軍、恒例のビンタシーンはすべて実際に殴っている。殴られ、よろけるのも演技ではない。一番多く殴っているのは初年兵係りの一等兵役、佐野浅夫ではないだろうか。主人公、木谷の木村功も、初年兵から3年兵まで20人ほど本気で殴っているシーンがある。この撮影現場の気合には圧倒される。

この本気ビンタ・シーンのある映画は数多あるが、恐らく、一番多いのはこの映画だろう。出演した西村晃のインタビューが特典映像にあるが、撮影現場では、監督・スタッフ、それに殴るほうも殴られるほうも、ものすごい緊張だったという。

陸軍内務班では、上等兵より、4年兵の一等兵がデカイ顔しているという実態はこの映画で分かる。初年兵はたとえ一流大学の出でもボロ雑巾のような扱いを受ける。この描写は後年の「兵隊やくざ」、テレビ「どてらいやつ」でも使われた。

インテリ3年兵の曽田一等兵が虐待を受けた初年兵に優しく諭す。「軍隊というところは人間性を奪うところです」。この言葉がこの映画のすべて。

木村功の演技歴のなかでも渾身の作品。いや出演者全員も、「くそ陸軍め、ザマーミヤガレ」という気迫を感じる。

軍隊の本モノのビンタも、実際は歯が折れるほど酷かったのではないだろうか。そこまでは映画ではやれない。

追記: 映画のミス

軍法会議での憲兵長の岡田英次が喋っているシーンで、背後の壁に、ブームに吊り下げた録音マイクの影がはっきり写っているカットがある。

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宮本武蔵・般若坂の決斗

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邦画メモ、NO、49、DVDレンタル

1962年、東映、シネスコサイズ、カラー(フジフィルム)

監督- 内田吐夢、撮影- 坪井誠、音楽-、小杉太一郎

出演- 中村錦之助、入江若葉、木村功、浪速千栄子、木暮実千代、江原真二郎、三國連太郎、丘さとみ

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秋になると「宮本武蔵」のページをパラパラと開いて乱読するのが毎年の習慣で、これは私の頭には武蔵が佇んでいる原野はススキが似合っている、武蔵は秋の風景に溶け込んでいるのがカッコイイという単なる思い込みによる。

武蔵の映画は、稲垣作品を戦中の作品と戦後のリメークを観ているが、内田作品も数年前の武蔵ブームのとき、NHKBSで放送されたものを観ている。今回、DMMにより「一乗寺の決斗」、「二刀流開眼」とともに本作を数年ぶりに再確認した。

世間では、錦之助が武蔵を演じた、この内田作品のほうが評判がいいようだが、私は稲垣作品と内田作品の武蔵、および、その他登場人物、さらに小説を読んで頭の中でイメージした「宮本武蔵」がゴッチャになってしまっていて、どちらの作品も均等に印象のあるシーンがあり、偏り無く評価している。

ただし、私は稲垣作品での三船の武蔵より、錦之助のほうが断然似合っていると感じ、小説を読んでも武蔵の顔は錦之助である。

彼が演じた時の年齢は三船より若いはずだ。武蔵は22歳の設定だが、稲垣作品の撮影当時の三船は30歳ぐらいであって、少しオッサンくさい。もっとも戦中に制作された作品では、片岡千恵蔵が武蔵をやっていて、これはもっとジジくさかった。

追記:錦之助も撮影当時は30歳だった。

お通さんはどうだろうか、内田作品では入江若葉という女優さんである。化け猫女優、入江たか子さんの娘さんであるが、本人には失礼だが、たいへんな大根。それにお通さんは胸を病んでいるはずだが、健康優良児に見える。これは似合わないと感じた。やはり、お通さんは稲垣作品の八千草薫に限る。

お杉お婆は本作では浪速千栄子が演じているが、これはピッタリであり、しかも彼女のこと芝居がうまい。稲垣作品では誰が演じたか記憶に無い。それほど浪速千栄子は強烈であり、適役である。

なお、稲垣作品と内田作品の「宮本武蔵」がゴッチャになって見えてしまう一因は、演じる俳優さんが、両作品に違う人物で出演していることにもある。

例えば、三國連太郎は稲垣作品では又八だが、内田作品では沢庵だ。また木暮実千代は同じく吉野太夫からお甲に代わっている。

日観和尚は月形龍之介が演じているが、これも適役。私は今回観るまで、長い間、中村雁治郎と勘違いしていた。

佐々木小次郎は、稲垣作品では鶴田浩二、本作では高倉健。どちらもアクションが似ている。任侠映画出身のためか。

ところで般若坂というのは映画ではゴルフ場のラフのような場所だった。ピクニックに最高のなだらかな丘。坂には見えなかったが。

この場所での決闘は映画のクライマックスであるが、首が飛んだり、血が吹き出たり、同時期の黒澤作品の影響が大。

東映の大道具のセットはヒドイという評判だが、特に城などの石垣が平面のベニア板に描いた絵のようで、芝居の舞台に置いてあるようなものだった。

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ハッピーフライト

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邦画メモ、NO,48、DVDレンタル

2009年、東宝、ビスタサイズ、103分

監督- 矢口史靖、撮影- 喜久村徳章、音楽- ミッキー吉野

出演- 田辺誠一、時任三郎、綾瀬はるか、吹石一恵、寺島しのぶ、岸部一徳

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ヒコーキファンとしては納得の行く作品で、かつて観た航空機パニック物のなかでも機体、コックピット及びその操作の描写の正確さとしては最高の作品。

ボーイング747ダッシュ400の離陸、クライムから巡航、ディセント、ファイナルアプローチは、細かい操作は省略してあるだろうが、ほぼあの通り。

過去のヒコーキ映画では、どしょっぱなの離陸前から、コ・パイが担当の無線交信をキャプテンが行っているという大きな間違いがよくあり、ズッコケたものである。

この映画ではちゃんと右の席の時任三郎が無線をやっていた。

コックピットはシュミレーターを使っているので、レバー・スイッチ関係のセットの間違いなどは、もとより無い。エンジンが4つある飛行機なのにパワーレバーが2つしかないという、テレビドラマであったようなインチキはなかった。

ただし、バイロットを横から撮影したカットはカメラの設置を検討すると、シュミレーターではなく、壁面を外すことが出来る、正確に造られたセットかもしれない。

こういう映画では必ず乗客のクレーム処理の描写があるものだが、やはり日本人としては多少オーバーな演出だった。ビジネスクラスに移動した、あのむたいな男性の怒鳴り方は極端であり、もう少し酔っ払わせたほうがいいと思う。

CA同士が集まった場面での会話も、私が言うところのチャラ・チャラドラマ調で、日本人の普段の会話ではありえないようなオーバーな演技で鼻についた。今の若い人は、コメディータッチとなると、ああいうアクションでないと納得しないのだろうか。それは新婚旅行に行く飛行機恐怖症の花嫁の演技でもそうで、この女性が騒ぎ出してトイレに駆け込むシーンなど、やはりオーバー演出が多い香港映画を観ているようだった。

そんな演技が多い中でも、時任と寺島と岸部の演技が冷静に抑えられていてホッとした。

整備士が、やたら上司(あるいは管轄外スタッフ)に怒鳴られていて気になった。ああいう仕事ではアセリは禁物ではないか。人の命を預かる仕事場が、あんな雰囲気の環境では乗客として気になる。

私は急いで修理した整備士より、伝達確認を怠った上司が悪いと思うのだが。まして、執拗にお客さんや社員の前で怒鳴りちらすのは、もうパワハラといってよい。ああいうスタイルで社員教育をしている人はやり方を間違っている。

横風20ノットのクロスウィンドランディングではクラブ(カニの横ばい)着陸を行っている。パイロットの腕の見せ所だ。そのVFX映像も素晴らしい。

すでに閉鎖されている香港の啓徳空港では、九龍市街上空の極端なライトターンの後、このカニの横ばいで接地する光景がよく見られた。

 ・・・・ユーチューブ映像参照 http://www.youtube.com/watch?v=OtnL4KYVtDE&feature=channel

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驟雨

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邦画メモ、NO,47、NHKBS

1956年、東宝、スタンダード、白黒、91分

監督- 成瀬巳喜男、原作- 岸田国士、脚本- 水木洋子

撮影- 玉井正夫、音楽- 斎藤一郎

出演- 佐野周二、原節子、香川京子、小林桂樹、根岸明美、加東大介、長岡輝子、堺左千夫、伊豆肇、中北千枝子、塩沢登代路、東郷晴子、村上冬樹、佐田豊、大村千吉、恩田清二郎

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驟雨とは、にわか雨のこと。

この映画制作の前年、成瀬は名作「浮雲」を公開している。あの映画、たいへんシリアスで暗く、ラストシーンは高峰秀子の臨終である。

それで、成瀬も肩の凝る映画を作ってしまったという反動だろうか、この「驟雨」はたいへんコミカルで軽い。

オープニングシーンは夫、佐野周二が妻の原節子にグチグチと小言を発し続ける。これは男性が聞いても嫌なもんだが、妻は言われっぱなしでなく、反論もするのは戦後の民主主義の影響だろう。ただし、ヒスを起こすわけでもなく、当時の女性はたいへん我慢強い。現代だったら夫は問答無用に「ウルセーテメー」とジャガー横田のように噛みつかれ、パンチを食らうかもしれない。

この小言を言い合うシーンは小津が演出していても似合ったかもしれない。例のローアングルで真正面のバストショットにより、短いセリフごとにカットの切り返しとなるだろう。この二人の役者さんも小津の常連である。 若い頃、成瀬監督は松竹に在籍していたが、所長は「松竹に小津は二人いらない」と語っていたそうだ。それが原因かどうかわからないが、後に成瀬は東宝に移った。

新婚ホヤホヤの香川京子が、はやくも夫のグチを叔母の原節子に訴えに来るのだが、彼女の苦言による夫の態度はデリカシーが無く、やはり同じ男性としてもケシカランものであり(こんな美人の妻を娶ったのにという意味で)、これも現代だったら成田離婚ものだろう。

佐野夫婦の隣に引っ越してきた小林桂樹、根岸明美の夫婦も軽い感じで、両家お互い、言いたいことも言うのだが、小林のキャラのせいか角が立たない。観ているこちらも安心する。

その根岸さんの体格のいいこと、ダンサー出身であることが庭の体操シーンで納得できる。

この二軒両隣は借家らいしいのだが、私の幼児のころ、昭和30年代にもそこかしこに存在していた木造平屋の形態であり、なんだか懐かしかった。水道は来ていないのか、家の中の台所に手動ポンプ式の井戸がある。もうこの頃テレビジョンは放送されていたはずだが、もちろんラジオしか置いていない。しかし後のシーンでは、デパート「白木屋」の屋上にテレビアンテナらしきものが見られる。

保育園で行う、町内会の常会シーンは、みんなバラバラの意見を言い合うだけで結論の出ないという傑作シーンで、今井監督「青い山脈」のラブレター事件会議を思い起こさせる。

佐野は化粧品会社に勤めている営業マンだが、ある日、社員全員とともに食堂で社長からリストラによる希望退職の説明を受ける。この社長のはなし方が横柄で、「あー、ええか、わかったか」という言い回しにはムカついた。この社長役の俳優さんが恩田清二郎だろうか。憎々しい。うまい。

結局、佐野家の諸問題も解決せず、佐野と原節子との紙風船の投げ合いで映画は終わる。もうちょっと展開してほしかった。上映時間も「浮雲」よりずっと短い、軽い、もの足らない。

音楽は始終ビアノの独奏演奏のみ、それも即興演奏といってよく、明るい曲調なのはいいのだが、ちょとレベルの低い即興だった。

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醜聞・スキャンダル

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邦画メモ、NO,46、NHKBS

1950年、松竹、スタンダード、105分

監督- 黒澤明、脚本- 黒澤・菊島、撮影- 生方敏雄、音楽- 早坂文雄

出演- 志村喬、三船敏郎、山口淑子、千石規子、小沢榮、桂木洋子、日守新一、三井弘次、清水将夫、北林谷栄、青山杉作、高堂国典、上田吉二郎、左ト全、殿山泰司、神田隆、千秋実

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好きな役者さんもすべてメモした。

黒澤映画への出演では、最初で最後の役者さんが大分いる。 その中でも、北林谷栄さんや殿山泰司氏が出演しているとは記憶になかった。 観るのは2回目なのだが。

さすがにこの時期は、黒澤監督にも役者のより好みなど出来なかったのだろう。

「酔いどれ天使」では主人公である医師・志村喬を、ヤクザの三船が完全に食ってしまっているが、この映画では、三船や山口を、志村が食ってしまっている。つまり、弁護士・蛭田の生き返る話が中心。

山口淑子さんは、中国で活躍していた女優さんだが、またバタくさい人で、画家・青江の西洋風の、これまたバタくさい家に、三船と佇んでいるのは、新劇の翻訳物の舞台を観ているようだった。(実はまともに観たことはないのですが)

志村喬の演技は、「生きる」よりこちらのほうが好きだ。 特に初登場のシーンがいい。この二つの映画の志村は、まるで性格の違う双子のようで、どこか似ているところがある。

桂木洋子という女優さんは、あの当時の女優さんとしては、八千草薫に並ぶ、たいへん顔や容姿のこじんまりした女性で、現代にこのまま出演してもアイドルとして成功できると思う。 「破れ太鼓」と「番場の忠太郎」に出演しているのを見て、ちょっとファンになってしまった。

ラストでは、三船が新聞記者たちを相手に「今日、星が生まれるのを見た」と発言するが、どうも私にはクサく感じる。 三船と山口を、星が写っている小川の道を歩かせ、このセリフをしゃべらせてはどうだろうか。

三船と左ト全が歌っているのは珍しい。 「ズビズバー♪」。

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日本沈没・2006年版

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邦画メモ、NO,45、DVDレンタル

2006年、東宝、超シネスコサイズ、135分

監督- 樋口真嗣、 撮影- 河津太郎、 音楽- 岩代太郎、

VFX- 佐藤敦紀、 特技監督- 神谷誠

出演- 草彅剛、柴咲コウ、豊川悦司、大地真央、及川光博、石坂浩二、長山藍子、吉田日出子、柄本明

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この映画を昨夜観たのだが、本日、2009年4月23日、主人公、小野寺を演じた人物も沈没してしまった。

「平成ガメラ」の特撮を担当した樋口監督なので、実写感をともなった迫力ある都市の崩壊シーンを期待したが、特に印象にない。

全体に薄味の映画となってしまった。人物にエネルギーがない。小野寺は、今、ハヤリの「草食タイプ」の男性で、熱いモノを感じられない。もっとも、あの役者さんがそうなんであるが。

でも、全体的に人物のアクションが、フジテレビ系列のドラマや、昔の東映映画のように、大げさでなかったのは好感がもてる。

ただ、豊川悦司という俳優さんが、どの映画に出てもトンガッタ人物像で、なんとかならないか、と思った。

VFX映像も、特に関心するものはない。都心ビル群がゆっくり崩壊するのは、なかなか実写感があり、いいのだが、そのシーンが僅かしかなく残念だった。 もっと観たいのである。東京タワーがゆっくり傾いていくのを観たいんである。

津波の描写も、昔の東宝特撮のままの大波がかぶさってくるもので、演出に進歩がみられない。スマトラ沖地震・津波のように、海から河が逆流してくるような描写をすれば、現実感の伴う恐怖が演出できたと思う。

それにしても、日本のこういう映画のシナリオというのは、どうして必ず、両親と死に別れた子供や人物が出でくるのだろうか。それに、離婚した元夫婦が偶然出会い、お互い、けなしあいあいながらもプロジェクトを進めるというシチュエーションもよくある。こんな話は怪獣映画などでもおなじみの、使い古しの展開である。

N爆弾というものがよくわからぬ。核兵器に匹敵する破壊力だと説明している。どういうシカケなんでしょうか。 デイジーカッターと呼ばれる気化爆弾は1キロトン位の威力はあるのだが、深海では使えないだろうし。

また、海底各所にセットしたその爆弾の点火装置が、どうして一箇所しかなく、その設置に深海まで潜らなければならないのか、まったく説明不足。脚本を逃げてしまっている。 自己犠牲もワンパターン。

ミニチュア特撮は熊本城の破壊と、崩落する橋の部分に認められた。他にもあっただろうが、CGとの組み合わせでよく確認できない。

監督が、どうも構図や撮影に凝ってしまっているように見える。 しかし、色が美しい。 

私がこの映画で好きなシーンは元・夫の豊川が元・妻の大地に「ありがとう」と感謝するところで、偶然鳴った船の霧笛の音が重なり、元・妻にその言葉が聞こえなかったというところ。

DVD化での問題だろうか、画面サイズがシネスコよりもっとペッタンコになっていて、ほんとうに溝口監督言うところのトイレットペーパーのようになっていた。これは観やすいものではない。

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あにいもうと

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邦画メモ、NO,44、NHKBS

1953年、大映、スタンダード、白黒、86分

監督- 成瀬巳喜男、 原作- 室生犀星、 脚本- 水木洋子、

撮影- 峰重義、 音楽- 斎藤一郎、

出演- 京マチ子、森雅之、久我美子、山本礼三郎、浦辺粂子、潮万太郎、船越英二、本間文子

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恐らく私の10代のころ、テレビで観た映像の記憶断片で、なんという映画か長い年月不明だったものが、本日、この映画であると判明した。

その記憶の断片は、船越英二が揺れるバスの中で饅頭をパクついているシーン。 あんなに揺れるバスで饅頭を食うなんて、乗り物酔いしないかと当時思ったものだ。 私の記憶では船越は進行方向に向って左の位置に座っていたが、実際は右側だった。記憶がネガティブになっていた。

もう一つは夏の茶店でオヤジがカキ氷を客に出しているシーン。匙をぞんざいに洗って客に渡しているのが印象にある。

あとの筋書きやらシーンは全く記憶になかった。ひょっして当時、途中で観るのを断念したのだろう。 成瀬の映画はティーンエイジャーには退屈だったのかもしれない。

この映画は成瀬監督が東宝争議のゴタゴタから脱出して大映で撮ったもの。したがって、脚本の水木、音楽の斎藤を除き、成瀬にとっては馴染みのスタッフではない。心なしか録音が良くなかった。最初の部分はセリフが良く聞き取れなかった。

映画のクライマックスは兄の森雅之と妹の京マチ子が大喧嘩をするところで、成瀬の映画でも、私が観たものでは、カット割も多く、怒りのテンションを維持した一番ダイナミックなシーンだった。

着物姿の京マチ子さんが粋で、そのスタイルや顔は、昔の富山の薬の包装に描かれている女性の絵のようだ。(富山の薬の包装は今でも昔のままだが)

森雅之は珍しくインテリではなく、荒くれ男の役。妹を見れば始終、罵倒を繰り返すが、内面では妹想いである二面性をうまく演じている。

久我美子は姉の正反対ともいえる実直な性格。 男で不幸になった姉の姿を見ているので、恋人との駆け落ちを断念してしまう。 5.6年前の映画の彼女の姿というと、セーラー服が似合うあどけないものだったが、もうこの映画では大人びていて、落ち着いた女性を演じている。

成瀬の演出はセリフのないシーンでの顔の表情が秀逸。 

溝口監督は成瀬映画を「あの人の映画にはキン〇〇がありませんね」と評したそうだが、その意味については、私はなんとなく判ったような、そうでもないような。 

この映画では、兄弟の大喧嘩のシーンと、森と船越が相まみえるシーンが二つのキン〇〇のような気がする。

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