この映画の日本シーケンスは黒澤が監督するはずであった。
しかし、数々のゴタゴタにより、黒澤は監督の座を降り、撮影は30分ほどのフィルムで終え、中断した。
その部分も結局使われず、深作、舛田監督に委ねられた。
深作はアクションの担当、舛田は人物部分を担当した。
このへんのいきさつは何冊の本にも書いてあり、あえて説明に及ばないが、没になったフィルムを観たいものだ。 黒澤は素人の俳優を使ったのだ。
総合監督はR・フライシャーで、この人のお父さんは映画版「ポパイ」のアニメーターであったマックス・フライシャーである。
アメリカ側の撮影では、日本側に比べ、たいした役者を使っておらず、いろいろ非難されるが、これはドキュメンタリータッチとするため、あえてビッグスターは使わなかったということだ。
ちなみに、山本役に三船も候補に挙がったが、既に東宝「山本五十六」に出演済みでもあったし、黒澤と決裂しており、気を使って出演しなかったということであるらしい。
制作総指揮は、ダリル・ザナックで、あのカイザー髯をはやしたアナクロじいさんである。
当時、20世紀フォックスは経営がピンチで、ザナックが前作で一発あてた「史上最大の作戦」の第2弾ものとして企画された。
制作費は当時3000万ドルで、現在ではどのくらいになるか見当もつかぬ。
演出のコンセプトは、日本側の描写は、規律と統制であり、アメリカ側は後手に廻った怠慢の様子である。 したがってこの映画、アメリカでは当然ウケなかった。
日本軍の攻撃を予測しながら、連絡がうまくいかず、アタフタした様子がうまく演出してある。
なお、映画中のことは全て事実であり、フィクションではない。 それは映画の冒頭でtrue storyということで説明がある。フライイングスクールの場面も実際にあったことである。
ただし、当時のルーズベルトが、日本側の真珠湾攻撃の暗号を既に知りつつ、あえて、だまし討ちを演出したという解釈は憶測にすぎない。
映画の冒頭で、旗艦長門の実物模型が出てくるが、ベニアで造られたにしては実によく出来ている。日本側のスタッフが制作したのだが、フライシャーもコメントで驚嘆していた。 ただし九州の干潟に造られたこの模型、カメラに写らないウォーターラインの辺は土台の骨組みだけです。
日本軍の攻撃シーンの90パーセントは実写映像であり、圧倒的な効果がある。
特に驚異的な映像は、滑走路でのカーチス戦闘機の暴走シーンで、無線操縦のこのヒコーキは予期せぬ動きとなり、スタントマンを危機にさらしたが、その映像はそのまま使用された。
あのシーンは何度観てもすごいがケガ人はゼロだったということだ。
ゼロ戦を演じているのは、テキサンT-6という練習機で、ヒコーキファンにはおなじみである。 ところでこの練習機、戦時中も日本のパイロットから、「敵さん」に通じることから知られ親しまれていた飛行機である。
実物の撮影ではどうしても不可能な部分はミニチュア特撮が使われている。
担当したのは、Lyle Billy Abbot(L・B・アボット)とA・D・フラワーズである。
ハワード・ライデッカーも参加しているようだ。
このアボットという名前は、小学生の頃から知っていた。いや崇拝していたと言ってもよい。
私は、小学校1年生ごろから映画やテレビで円谷特撮に触れていて、それなりに面白がっていた。
しかし、2年生から始まった「宇宙家族ロビンソン」のジュピター2号の飛行と探検車(英語でチャリオット、フランス語でシャリオ)、それに一つ目巨人のミニチュア特撮でアボットの映像のすばらしさに開眼し、 さらに「原子力潜水艦シービュー号」の水物の描写、水中、特にフライングサブなどのシーンに圧倒されていたのだ。
またアボットとは別に「サンダーバード」の小さい模型ながら、迫力のある特撮とも比較して円谷英二の時代などもう終わりだと思っていた。
それで、中学1年の時、この「トラ・・・」である。
私のミニチュア特撮のスタンダードは、まだ観ぬ「2001」を除き、70年代後半のsfxブーム以前ではL・B・アボットが決定的となった。
さて、この映画において、彼のすばらしい撮影は、まずハイスピードカメラの回転が安定していて、その適切な速度により、迫力ある爆発燃焼を見せている事だ。
カメラの回転数は5倍程度である。
これは見る人によっては、遅く感じ、海面の波の動きなど、水飴のように見えなくもないが、あの速度がミニチュアのスケールと比較し、実物映像に近いものと私は確信している。 これを3倍程度の回転数ではどうしてもミニチュア然となってしまうのだ。
私がそのシーンでいつも舌をまくのは、マーチンバルサムが流れ弾に当たりそこなう直前の、窓外からみたアリゾナなどの爆発特撮シーンだ。 あれはもう上記写真のような真珠湾攻撃の記録フィルムに近い。
尚、話がそれるが、円谷の特撮で、5倍以上のハイスピード撮影はテレビ「マイティジャック」で観られる。 マイティ号の浮上発進シーンはそのせいで迫力がある。
さらにアボットは(アメリカの特撮監督は)ミニチュア撮影で、可能なことなら、できるだけ野外の太陽光で行うことだ。 太陽の光はスケールダウンしたミニチュアでも実物と変わらない陰影を表現できる。 そのため、この映画でも実写部分とのつながりが実に自然である。
このやり方を日本で積極的に実践しているのは、平成ガメラの樋口監督であるが、円谷にも大プールでの野外撮影はある。 しかしどうもうまく見えない。
爆発では水柱も実に自然だ。 実写シーンでも観られるように、浅い海面で爆発が起こると、細い長い水柱となる。それをうまく表現してあった。
それは、火薬の下に銀粉を敷き、吹き上げた時、細かい水滴に見えるように工夫してあるためでもある。
これを円谷がやると、「ハワイ・マレー沖海戦」や以後の水物映画などでは三角錐の水柱となってしまう。 あれは不自然である。第一、投下魚雷の炸薬は50キロ程度で、あんな大きな爆発はありえない。
円谷は「日本海大海戦」で圧縮空気による爆発水柱を表現している。 ユニークな方法であるが、このアボットのやり方のほうが自然に見える。
空母赤城などの走行シーンもすばらしい。ミニチュアもかなり大きいが、スモークを焚いた夜の海の状況は、奥行き感があり、適切なハイスピード撮影とあいまって、雰囲気をよく出している。 波の動き、船の周りと後になびく白波は特殊な薬品により作り出す工夫をしている。
というわけで、私が東宝のミニチュア特撮に辛口になるのは、このLBアボットやサンダーバードのデレク・メディングスの存在により、無理からぬことなのだ。
だが、円谷特撮でも感嘆するシーンがたくさんある、以後紹介できればと思う。
尚、この「トラ トラ トラ」、おしむらくは、この映画でこれらミニチュア特撮の部分が少ないことだ。 アクションの主役は、やっぱり実写映像なのだ。
時間の関係か、ミニチュア撮影は かなりカットされているはずである。もっと観たかった。
また、ミニチュア撮影部分に飛行機が登場するのは1カット一瞬しかなく、あえてボロがでそうなものは、省いたのかもしれない。
本編撮影が終了し、公開されるまで1年以上かかったそうだが、それは特撮と編集に時間がかかったためだという。
トラ・トラ・トラの暗号は「突撃 雷撃機」の意味で、和文モールスで
トラ は ・・-・・ ・・・ である。
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