カテゴリー「特撮物」の記事

ポセイドン・アドベンチャー

ポセイドン・アドベンチャー ポセイドン・アドベンチャー
販売元:セブンアンドワイ
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発音を聴くと「ポサァィドゥン」と言っている。

ポセイドンとカタカナをふった最初の日本人の耳はどうかしている。

特撮はL.B.アボットであるが、どうも冴えない。

船のセットが小さい。恐らく3メートル前後というところか。巨大感がない。

セットが小さいと水滴が目立つ。客船だと少なくとも5メートル前後にしたい。

アボットは「トラ・トラ・トラ」で空母赤城を巨大ミニチュアセットで撮影し、特に船首の荒波にさらされるシーンはすばらしい効果をあげていた。

波やシブキの表現は相変わらずウマイ。 ここが日本の特撮のかなわないところだ。

ハイスピート撮影はいつもと同様、適切である。大波が襲うところは5倍以上の速さにしていると思う。

客船がひっくりかえった水中のシーンも良い。アボットらしい。

ブリッジから見た船首前方の暴風雨の風景もミニチュアだが、たいへんうまい。特撮と気づかないであろう。ただし、円谷でもあれくらいのことはできそうだ。

ところで、映画の中では時速60ノットの大波がやってくるという描写になっているが、実際、地震による津波は、洋上では水の圧力が時速500キロくらいの速度で伝わっていくもので、船の上では波と気が付かないものだと思う。

したがって、船がひっくり返るようなことはありえず、この映画は人々に誤解を与えている。

船長のレスリー・ニールセンがカッコイイ。

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「東京上空30秒」の特撮

リアプロジェクションを特撮とするならば、この映画のそれは、たいへんすばらしい。 

バックの映像は全くブレておらず、投影も完璧。バックスクリーンと気づかないほどである。

この映画のミニチュア特撮では、完全に円谷英二、およびその弟子たちの映像を凌駕している。

シーン1

B-25の空母搬入。クレーンで吊り上げられる部分。ゆっくりとした動きがいい。艦板に着地するとき、翼が振動する。ここでミニチュアと分かるが上質な撮影である。片一方のアンカーがゆっくり揺れているので、ハイスピード撮影であることが分かる。

シーン2

B-25の空母発進シーン。 空母の前方より撮影。実写では不可能なカメラアングルなので、特撮とわかるが、プロペラ飛行機の堂々とした離陸が良い。ワイヤーは見える。

シーン3

B-25のエンジン全開から空母発進。 飛行機のサイズは翼のスパン2メートルほどのものか。ゆっくりと滑らかに動き出し、円谷物のようにガタガタ・ブルブル振動していない。チョコマカしていない。艦板を滑走・離陸する姿は実写そのもの。ワイヤーは見える。作業員が人形であることが分かるので、実写でないと確認できる。

シーン4

ドーリットルが操縦するB-25が空母後方から低空飛行するシーン。

空母の上空をB-25が飛行する俯瞰シーン。 空母のディテールが良い。その周辺の波が良い。 ハイスピードカメラの回転が良い。B-25はプロペラ飛行機の適切な速度。円谷の操演だと、ジェット機の速度にさせてしまうだろう。

シーン5

東京工場地帯の爆撃シーン3カット。 実によくできた工場群のミニチュア。東京の複雑な道路、細道も徹底的に表現してある。 俯瞰でB-25の飛行を撮影。爆発炎上のパイロは破片と煙・炎上のコラボで、上空高く、バランスよく吹き上がる。ハイスピードカメラの回転も適切。

このシーンがドキュメンタリーなどに使われていた。

シーン6

爆撃の様子をB-25の横窓から後方へ眺めたような、低空横移動の撮影。

これも丁寧に作りこまれたミニチュアを移動とともに、タイミング良く爆破させている。カメラは実際の空撮を模して、微妙に振動させている。円谷にこういう撮影センスはない。

以上がミニチュア特撮シーンであるが、もう1カット、リアプロジェクションをバックに輸送機の水平飛行シーンがある。これはたいした出来ではない。

ミニチュア撮影はすべて野外での撮影と思われる。 太陽光は、実写に近い陰影を与えてくれている。

1942年制作の東宝の「ハワイ・マレー沖海戦」の特撮は、誰がどう見たってミニチュアにしか見えなかった。

1940年代から、アメリカの名も知れない特殊効果マンによる、実写なのか特撮なのか分からない映像づくりが、いかに優れていたかがよく分かる。

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ゴジラのことなど

1974年のことだったか、テレビの民放局で「ゴジラ誕生20周年記念」という特別番組があった。

番組には宝田明、平田昭彦、志村喬が出演していたと記憶する。

その当時、私はまだこの映画を観ていない。20周年記念リバイバル上映というものがあったのか覚えていないし、テレビ放映もあったかどうか定かでない。

私の思い違いかもしれないが、どうも東宝はこの映画の出し惜しみをしていたように感ずる。特に他のゴジラシリーズとは別に、2番館での上映は許さなかったのではないか。

というわけで、観る機会の少ない、この昭和29年制作の「ゴジラ」は、私にとって憧れの映画だった

ところが、この映画を映画館で観たのか、テレビで観たのか全く記憶がない。

まともに観たのは10年くらい前に、WOWOWで無料で放送されたものということになる。

改めて観ると、画面も内容もたいへん暗い映画であることが分かる。

ゴジラの出現はすべて夜間。顔が良く見えない。容姿もあいまいな感じ。それは、ミニチュア特撮のアラをカバーできるというメリットがある。

初めての巨大怪物映画(まだ怪獣という言葉が出ていなかったと思う)で、円谷英二もスタッフも戸惑いがあり、自信がない部分もあるように思える。暗い夜のシーンばかりなのはその為だろう。

円谷は当初、「キングコング」と同じ、ストップモーションで撮影を計画していたらしい。ところが、時間的に不可能と判断、キグルミ方式に変えたということである。

映画の一部分にコマドリ撮影があるので、その片鱗が伺える。

しかし、キングコングの方式であったら、どんな映画になっていただろうか。その後の映画の流れが変わったはずだ。

ストップモーション映画では、レイ・ハリーハウゼンという巨匠が、当時活躍し始めていた。彼はキグルミ方式を全く認めていない。毛嫌いしているようにもみえる。 私はどちらもテクニックの一つだと思っているが。

ゴジラは戦争をよく知っている人たちが作った映画である。ゴジラの破壊した街は空襲により爆撃された様子そのままで、避難民や負傷者の描写はほぼ10年前の出来事と変わらない。 制作スタッフも役者も気が重かったことだろう。

昭和29年といえば、日本はもうアメリカの占領から独立しており、自由に映画を作れた。もしそれ以前だったら、あの被害を受けた悲惨な描写はGHQの検閲でカットされたことだろう。「ゴジラはアメリカの化身か」ということで。

事実、アメリカ版「ゴジラ」ではその部分がカットされているという。

宝田、平田、河内の新人俳優の演技もまだ固く、そんなことも映画を暗くしている一因である。

ゴジラは退治され、ヨカッタヨカッタという終わり方ではない。しかしそういうアプローチの映画の作り方もあったはずである。

山根博士は、しきりに学術的見地からゴジラの保護を訴えるが、私はどうも理解できない。ゴジラを生け捕りにしたいのだろうか。しかしクマやサルではないのだ。ゴジラの死体でも十分研究できると思うが。

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怪獣大戦争

怪獣大戦争 DVD 怪獣大戦争

販売元:東宝ビデオ
発売日:2003/05/21
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ゴジラがシェーをする映画なので、かなり有名である。

怪獣映画としては円谷物のなかでも、それほど特筆するものでもない。

特撮シーンは過去の「ラドン」などフィルムが使い廻されている。

しかし、忘れられない作品である。私自身、映画館で小学校2年生のとき観た。

シェーをしたことには、だいぶ批判がある。 宝田明、佐原健二、土屋嘉男の特撮俳優はみんな嘆いていた。

だが、その中の一人、土屋氏が円谷に、子供に受けるよう、マンガのマネでもさせたらどうだと進言した、と何かの本で見た。 それで、当時流行っていたイヤミのシェーをさせたというのだ。

たしかにシェーは流行っていた。 私の年代の写真アルバムには、シェーをしている少年の白黒写真が張ってあるものが結構あるはずである。

私はというと、シェーよりも、イヤミのベラベラに伸びた靴下を自分でマネして喜んでいた。

さて、この映画、音楽には伊福部のフリゲートマーチが大活躍する。円谷特撮ファンにとっては血湧肉踊る曲である。 

この曲は、子供のころには、いろいろな特撮ものに流れてるので、映画も、どれがどれだか分からなくなっていた。伊福部の音楽がどれも似通っているのも原因であるが。

妖艶な水野久美さんが宇宙人役で登場する。最近、フィギュアまであるので、子供たちへのインパクが強かった。 買うのはオヤジであろうが。 いまだに世界中からファンレターが来るという。

X星人のコスチュームはムチムチの黒のレザーで、顔には細長いサングラスをかけ、なかなかいい雰囲気であった。

土屋嘉男のエックス星人統制官も傑作で、「七人の侍」のウジウジした利吉がやっていると思うと、そのギャップが面白い。

この人、宇宙人大好きで、しゃべっているX星語も、芥川龍之介の「かっぱ」の言葉などを参考に彼が考案したものである。

「この円盤はすべて電子計算機によってコントロールされている」・・・・統制官のしゃべる、昭和40年代の言葉がなつかしい。 

コンピュータという言葉はあったが一般には使われなかった。UFOは1970年代以降である。ユーフォーと言うようになったのは、阿久悠さんの歌詞による。

怪獣のバトルは予算の関係か、ビルなどのミニチュアの無いX星にて繰り広げられるが、キングギドラがいい。 いいのは吐く光線である。あのギザギザは傑作だ。東宝のこの種の技術は世界に誇れるメードインジャパンだと思う。

キングギドラの「カラカラ」という鳴き声は、ウルトラ警備隊本部で流れる電話の音と同じである。・・・・デーモン小暮閣下も指摘していた。彼はそのマネがうまい。

新たに撮影された特撮シーンで、特にすぐれているのは、X星人の円盤(なつかしいアダムスキー型)が湖上に水中から浮上し、そのまま上空へと離陸するところである。 

水中で発光している円盤と、圧縮ガスによる泡と、円盤の上昇に引きずられるスモークが絶妙の演出をしている。円谷特撮史のなかでも、最もうまくいったものだ。

ラドンを地中から引き出すシーンも良い。

宝田明とニック・アダムスが乗る宇宙船はNASAのロケットの影響があるが、その特撮はミニチュア然として、あまり良くない。

慣性飛行している宇宙船に、上下は関係ないが、逆さまになった宇宙船の姿勢を元にもどすという、物理的に無意味なシーンがある。

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新幹線大爆破

新幹線大爆破 海外版 DVD 新幹線大爆破 海外版

販売元:東映ビデオ
発売日:2005/12/09
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私はオリジナル版を観た。

1975年公開の映画であるが、当時の景色がなつかしかった。ケンメリのスカイラインなどが走っている。

また東映映画であり、千葉真一や丹波哲郎などが出演し、その演出が「キイハンター」に似ていると感じたが、監督の佐藤純弥は実際にこの番組の演出をしていた。

乗客がパニックになるシーンは、相変わらず東映カラーの大げさな演出で、日本人が馬鹿に見える。 

名古屋駅を高速で通過している最中に、「降りる」と泣き叫んで大騒ぎする、覚せい剤患者のようなアホな人間がいるだろうか。

日本人は冷静な民族である。もう少し黒澤的リアリズムで人間を演出してほしい。

とはいえ、映画としてはよくできている。けっこう手に汗をにぎって終わりまで、時間を忘れて観た。

撮影にあたって、国鉄は完全に協力を拒否している。

なんでも、「新幹線危機一発」という題なら協力してもよい、ということだったらしい。 

ということで、撮影には作り物の車両を使い、窓外の景色もスクリーンプロセス(人物のエッジに影らしきものが写っているのでフロントプロジェクションかもしれない)が使われている。 その景色もゲリラ撮影のようで、安定していない。

宇津井健のいる、コントロールセンターはよくできているが、カメラのアップでは造りがお粗末である。

国鉄が協力したとしても、不可能なシーンはミニチュア特撮が使用されている。

その特撮に、日本で初めてシュノーケルカメラが使用された。当時、世界で3台しかなかったという。たぶん、レンタルであろう。

このカメラを使用する理由は、小さいミニチュアセットで、通常のカメラが入れない狭い場所の移動撮影ができる為である。

この映画では、運転席からの前方映像を得るミニチュア撮影で、新幹線の架線が邪魔となるため使用された。 通常のカメラを使用すると、かなり大きなセットを作らなければならないからだ。

下のレールと上の架線の間にシュノーケルカメラを突っ込んで、新幹線の運転席からのシーンを撮影した。

ただし、これはカメラのアーム部分の届く範囲か、架線の電柱の間しか移動できず、僅かなカットである。

(これは私の映像を見た上での推測であり、実際の撮影の様子は知らない)

もし、国鉄が協力していれば、コクピットの固定カメラで撮影でき、実写映像が得られた訳で、スタッフも苦労させられたものである。

このシーンは、オープンのミニチュアセットで撮影されていて、実写に近い効果をあげている。

また、ポイント切り替えで、車両が交差するシーンでも、通常のカメラが入りきれないところまでアップ、ローアングルの撮影がされ、このカメラをうまく使っていた。ミニチュアと分かるシーンであるが、その出来は良い。

新幹線が爆発する想像シーンのミニチュア撮影は、円谷のものと同等か、それ以下のレベルである。

また、新幹線のミニチュアは、客車の内部の作りこみや、乗客の描写が省略され、窓をスリガラス状で内部を見えなくし、ゴマカシとなっている。

であるから、夜間の走行シーンでも、内部にランプを点灯し、ただ窓のスリガラスから照らすという、「行燈方式」だ。

これは、東宝特撮のミニチュアビル群と同じで、私にはサボリに見えてならない。

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世界大戦争

世界大戦争 DVD 世界大戦争

販売元:東宝ビデオ
発売日:2004/12/23
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「渚にて」の次ぐ、核戦争終末物映画である。

話は平凡な一家を中心に進められ、貧乏人の私としては親しみやすい。これが、小津の映画のように、企業の重役椅子に座っている主人公中心では、チト見づらい。

フランキー堺の娘として、星由里子が出演しているが、当時17歳ということで、驚いた。大変大人びていて、演技も堂々としている。今の同年のタレントにあれができるだろうか。

フランキーの家の間取りは玄関を開けると4畳半の茶の間で、横に台所。この台所は洗面もかねる。

茶の間の奥は6畳くらいの仏間と縁側、庭がある。木の階段を登ると4畳半の和室である。二階には物干しがある。

これが懐かしい。 昭和30年代半ばの話だが、私の幼児のころの家のまんまである。あのころは友達の家でもこんなふうだった。

茶の間には14インチの真空管テレビが、4本の足を生やし、カバーをかけられて偉そうに構えている。 カラータンスがある。

2階の和室は間借りさせていて、宝田明が下宿している。そして星由里子といい仲なのだ。

宝田は船の通信士をしていて、この下宿でも、アマ無線をしている。

この無線室のセットがよくできている。私の小学生のころ、友人の兄はハムであったが、昔の無線機は自分で組み立てたものであり、この映画のセットそのものであった。おそらく、スタッフか、その知人にハムがいて、そっくり無線機群を借りてセッティングしたのではないだろうか。

映画では星由里子も無線の免許を取得し、ラストシーンへのつながりとなる。

余談であるが、アマ無線は、あの当時から、簡単な試験の無線電話の資格があるにもかかわらず、星はいきなり難しいモールスの免許(当時、電信級といった)を受けており、しかも和文モールスまでマスターしているので、アマチュア無線家には意外なことである。

さて、この映画は、そのフランキーの一家と、父親のいない母子家庭一家の離別、無線通信士の船上での話し、という形で物語が進行し、一方、ミサイル基地での緊迫、日本政府のむなしい対応が進む。

これだけの話を一本の映画に盛り込むのは大変なことであり、脚本のすばらしさとともに、松林監督の手並みの良さが良く分かる作品である。

しかし、核戦争ものは、あまたあるが、あくまでも市井の家族をメインストーリーとし、核による世界戦争のむなしさを訴えたのは、この映画が最初ではないだろうか。

松林監督は僧籍でもあるが、映画には宗教の壁を超えたシーンがあり、これは私の考え方と同じで、考え深いものがあった。

なにげなくて衝撃のシーンがある。

子供たちが、学校から早退して家に帰ってきて言う。

「戦争がはじまったから、先生が家に帰りなさいって」。

フランキー夫婦は知らず、うろたえて、ラジオのスイッチをいれ、核戦争勃発のニュースを知るのだ。  

これは、本当に現在でもありうるシチュエーションであり、古い映画とはいえ、想像すると自分でも、うろたえ、茫然としてしまう。

フランキー一家による、最後の晩餐は泣けてくる。

ちゃぶだいの上には、いなりずし、海苔巻きずし、小さなオムレツがある。当時ではささやかな一般家庭のご馳走だ。そしてなんとメロンが用意してある。メロンなどというものは、当時入院しなければ食えなかったシロモノである。

「今日はごちそうだね」と、事が良く分かっていない子供たちは喜ぶが、これが最後の食事なのだ。

その子供たちも、しだいに状況が分かってきて、あきらめた顔つきとなる。しかし決して泣き叫んだりしない。

フランキーによる物干しでの慟哭シーンは、彼の一世一代の名シーンに数えられる。 何度見ても涙なしには見られない。

このシーンはフランキーの要望により、撮影は一番最後に行われた。

こぼれ話: 

「世界大戦争」と同時上映は、東宝の突撃隊長、古澤憲吾監督による「アワモリ君乾杯」で、なんと主演の坂本九が、悪漢を追いかけ東宝撮影所に乱入、「世界大戦争」のリハーサル現場に飛び込み、あっけにとられたフランキー堺や星由里子、松林監督を尻目に、東宝の倉庫に駆け込み、悪漢はモスラのキグルミに隠れるという、楽屋落ちの珍シーンがある。

・・・・このシーンをユーチューブで発見した。

http://jp.youtube.com/watch?v=GyNsyhjkaJI

神妙な映画を観たあとであり、観客も唖然としたであろう。東宝も粋なことをするものである。

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猿の惑星

猿の惑星 (ベストヒット・セレクション) DVD 猿の惑星 (ベストヒット・セレクション)

販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
発売日:2007/10/24
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NHKBSで久しぶりにこの映画を見た。

以前、テレビ放映で何度となく観ているが、画面のサイズに合わせ、両端が、トリミングされている上に、原版よりかなりカットされていたものである。

一番最初にテレビ放映されたのぱ、荻昌弘さんのロードショウだったと思う。

荻さんが、アメリカから呼んだ特殊メークのスタッフにより、あの格好をして解説していた。

今回、改めて観てみると、いかに民放ではフィルムがカットされていたかが分かった。

カットが著しいのは、宇宙船が不時着し、猿につかまるまでのシークエンスである。猿がなかなか画面に登場しないという、ジラシの効果があるところであり、やはり、その部分が短くなったのでは、その意味がなくなる。

シャフナー監督は、なかなかの作品を作る監督であることが、山本氏とNHK氏の解説で知った。 

他の作品では、「ブラジルから来た少年」、「パヒヨン」などがある。

さて、気が付いたことは撮影がすばらしいことだ。アメリカの国立公園でのロケーションもさることながら、人間の捕獲シーン。逃亡したヘストンへのカメラワークはカット数も多く、テンポもよく、つなぎもよく、画面に釘付けになり、時間を忘れてしまう。

獣が吼えているような、ゴールドスミスの音楽も、前衛的で雰囲気がある。この人はなにをやっても、間違いの無い音楽を作る。

特撮はL・B・アボットで、この映画での仕事は少ないが、宇宙船が沈んでいくシーンが彼の映像で、野外で撮影されたミニチュアワークは、特撮だと気づかない人が多いのではないだろうか。波の演出がすばらしい。

冒頭の宇宙船外の色彩豊かな光の乱舞の合成もすばらしい。このへんは、相対性物理学を参考にしていると思われる。

宇宙船が墜落するシーンの効果音は、同じ20世紀フォックスのテレビ番組「宇宙家族ロビンソン」のジュピター2号の離着陸の音である。

やはり、アメリカの映画会社も、録音バンクからの音を使い廻しする。

なお、特殊メークのジョン・チェンバースは「ロビンソン」でも特殊メークを担当しているエピソードがある。

今回観て、気が付いたのは、ヘストンを聴聞するシーンで、オランウータンの議長(ジェームズ・ホイットモア)と、その両側に同席の議員が、ヘストンの証言を拒否する態度で、「見ざる、言わざる、聞かざる」のボディアクションをしていることで、この映画の唯一お笑いシーンである。

この言葉は日本の日光の彫刻だけでなく、

Three wise monkeysという言葉で世界でもおなじみだ。

自由の女神の見せ方のすばらしいこと。また、全体像のマット画も優れている。

もう40年前の映画であるが、この映画が撮影されていた当時の私は、いったい何をしていただろうか。

じつは意外に覚えているものである。

映画に写る風の動きや、水の波紋、立ち木の葉っぱの揺らぎ見るとき、その撮影している同時刻の自分は何をしていたかに、一瞬、思いを寄せることがある。

ヘストンが猿に追いかけられるアメリカの里山でそれを感じた。

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宇宙大戦争

宇宙大戦争 DVD 宇宙大戦争

販売元:東宝
発売日:2004/10/29
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東宝特撮映画において、唯一怪獣、巨大生物、巨大ロボットの出てこない、純粋なSF物である。 その為、案外目だたない作品ではないだろうか。

しかし、私は好きだし、高く評価している。

私が子供のころ、正月のテレビ番組で、ほとんど毎年放送されていた。 そして、親父とともに、コタツに入りながら楽しんで見ていた。

私の親父は大正生まれのガンコ物だが、なぜか、SF物が好きであった。それに私も付き合って観ていたというわけ。 

東宝のSF物では「妖星ゴラス」もある。 ある時、親父と観ていたら、トドの怪獣が出現したところで、親父はチャンネルを切り替えてしまった。

親父の頭には、

怪獣が出てくる=子供向け=子供だまし=観るに耐えない、

という式が成り立っていたのである。 

であるから、テレビ放映の「モスラ」などは、一切観なかったし、見せなかった。

こういう精神構造は、私にも若干影響している。怪獣ものは正直言って、観たかったのだが、たとえ一人でも、やはり観たり、話したりするのは、なんとなく恥ずかしかったのである。こういうことだけは大人じみていた。

したがって、私の観るものはキグルミの出ない特撮SFがメインとなってしまった。

親父の好きな円谷プロのミニチュア特撮テレビ物は、唯一「マイティジャック」であり、これは一切怪獣が出てこなかった。 親父は私にも見せてくれた。

さて、この映画、月の描写などにバイロン・ハスキン、円盤のデザインにジョージ・パルの映画の影響がみられるが、逆に、多くのSF映画に影響を与えているのではないだろうか。

「スターウォーズ」のルーカスは若かりし頃、横須賀の映画館で、この映画を観ている。 「オレもいつか、こんな面白い映画をつくりたい」と語ったエピソードがある。 ただし、この映画は世界公開しており、英語名は「BATTLE IN OUTER SPACE」。 ルーカスがこの映画の邦題を知っていたかどうかは分からない。

円盤と防衛軍宇宙艇の、光線によるバトルは「スターウォーズ」に劣らないシーンである。

スタンリー・キュブリックは「2001年宇宙の旅」の準備段階に、世界のあらゆるSF映画を観て、制作の参考としているが、当然この映画も観ている。

この映画には月を移動する探検車が出てくるが、空中に浮上・移動することができる。 「2001」のムーンバスも同じ飛行方法である。同じタイプのものは、後年のアンダーソン夫妻の「UFO」でも登場する。

各国の科学者を前に、熱線砲の発射実験を行う場所は、白黒のまだら状のトンネルであり、これはアーウィン・アレンの「タイムトンネル」のデザインそのものだ。

また、コントロールルームの計器類のセットと、従事するオペーレータなどの描写は、デザインこそ違うが、同じくアレン物のSF物によくみられる。

というように、以後の映画のヒントがいくつも見つけられ、世界SF映画史上、忘れてはならない存在だと私は思う。

この映画の欠点を挙げるとすれば、物理的根拠が怪しいことで、重力の原理は原子の核振動であり、絶対零度になれば、重力がゼロになると、もっともらしく説明していることである。

「妖星ゴラス」脚本制作時のように、大学の先生に相談するべきである。

そのもっともらしく説明している科学者は池部良であるが、彼へのインタビューで、特撮映画の主人公を演じていることには、こう答えている。

-- ひどくみっともないんだよ。 はっきりいうと、要するに俳優の出番がないんだよ。あれだけ俳優がいるんだけどね。なんとか博士、なんとかパイロット、というだけの話であってね。その博士が「ああでもない、こうでもない」という気持ちをこねまわす類の映画じゃない。ストーリーの90%は特撮で、俳優じゃないから。」 --

池部良が最後に出演した特撮物というと、「スターウォーズ」公開前に拙速で制作された「惑星大戦争」ではないだろうか。

参考文献 : 

「映画俳優 池部良」 志村三代子、弓桁あや 編 ワイズ出版

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駆逐艦ベッドフォード作戦 THE BEDFROD INCIDENT

駆逐艦ベッドフォード作戦 DVD 駆逐艦ベッドフォード作戦

販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
発売日:2006/12/20
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恐ろしい話である。まったく駆逐艦の艦長などというチッポケな存在のエゴにより、世界を狂わすという、とんでもない話。

この映画は、高校生のとき、深夜映画で観て以来、ずっと気になっていた。

それは、船のミニチュア特撮がすばらしいからだ。

今回、DVDの注文により、再確認することが出来た。

1965年、コロンビア映画であるが、イギリスで撮影されている。

そのせいか、イギリスのエド・ビショップなどの俳優が出演している。

また、駆逐艦のミサイル発射安全装置のアラーム音は「2001年宇宙の旅」で爆発ボルトのリリースと同じ効果音であった。 その「2001」はイギリスで制作されている。

船のブリッジ上とバックの海の合成は明らかにフロントプロジェクションである。

駆逐艦のミニチュア撮影は霧のシーンを除いて、すべて実際の海で撮影されている。 それは光、影、空の雲、空気、海の色で判断できる。

水平線かなたの空は、けっして東宝プール撮影のように、カキワリバックではない。

駆逐艦は小モデルで2メートルくらい、大モデルもあるようで、5メートル近い。

波やしぶきの様子は的確で、ハイスピード撮影は回転数がまったく正しい。

カメラの位置は水面ギリギリで、駆逐艦が向こうから手前に接近してくるシーンは実写と見間違える迫力である。

太陽光での撮影であり、人工のライトによる、スタジオ撮影的なウソくささがない。

氷山群を駆逐艦が移動するシーンもあるが、これまたすばらしい。波がリアルである。こういう水物は火炎と同じく難しいのだが。

夜の霧の氷山群もよくできている。スモークによる霧の撮影では、風が吹く野外は困難で、スタジオ撮影をすることになる。照明弾に照らされて浮き上がる風景は実に自然だ。

夜明けの氷山群が美しい。

円谷特撮なども比較して、私の観た映画の中で、船のミニチュア撮影はこれが最高のものである。

次点は「海底2万リーグ」というところか。

リチャード・ウィドマークの演技にしびれてしまった。あのするどい眼光ににらまれたら、萎縮してしまう。 シドニー・ポワチエの演技は彼により霞んでしまっている。彼はプロデューサーでもあるが、スタッフに対してもあの艦長の雰囲気ではなかったろうか。

なお、まだかけだしのドナルド・サザーランドが細長い顔で写っている。

特殊効果担当の名前がエンドロールにも載っていない。いつも思うのだが、アメリカの特撮チームは、名も知れぬ、目立たない人たちが、大変いい仕事をしている。

いい仕事とは、観客に特撮と気づかれないことである。

アメリカの特撮マンは気づかれないことに誇りをもっている。

その点、日本の特撮は観客に見透かされている。

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青島要塞爆撃命令

青島要塞爆撃命令 DVD 青島要塞爆撃命令

販売元:東宝
発売日:2006/06/23
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円谷特撮物で唯一未見のものであった。昭和38年制作。東宝

監督は「無責任」の古澤監督で、やっぱりどこか豪快で、無責任である。

第一次大戦、1914年ごろの、唯一日本としてドイツ軍と戦った中国、青島の戦いにおける大手柄の話で、古澤監督だけにホントカイナ、というところである。

あの当時の時速100キロも出ない「ファルマン」という複葉飛行艇が登場する。

その実物大模型はよくできているが、予算と時間があれば実際に飛行できたであろう。惜しいことだ。プロペラは電気モーターで回しているのだろう。

東宝の実物大飛行機としては「太平洋の嵐」などに、ゼロ戦がやはりモーターのプロペラを回して写っているが、プロペラスピナーがブヨブヨとアンバランスに回っていて、ヒコーキファンには耐え難いシロモノであった。

ミニチュア撮影は過不足ない。 良いシーンは列車が鉄橋を渡ったと同時に飛行機が頭上を追いかけるところ。そして 青島要塞を俯瞰から撮影したシーン。

今回の飛行機のミチュア撮影は、実機の飛行速度が遅いため、円谷独特のチョコマカした飛行でなく、実際の動きに見合ったものである。

以前の円谷が演出する第二次大戦の戦闘機の飛行速度はジェット機並に速くチョコマカしている。それは操演が速すぎたり、ハイスピード撮影が適切でなかったり、24コマで撮影したりする為でもある。

丁寧に作りこまれた、結構大きいミニチュアの機関車、列車が走っている。

やはり、カメラの回転速度が遅い。資料によれば野外で撮影しているが、曇り空のようで、太陽光線の効果が出ていない。

ただ、その列車にカメラを乗っけて撮影したシーンは上々である。

円谷は自他認めるヒコーキファンであるが、この仕事は楽しかったであろう。

ファルマン機は水上飛行艇で、ミニチュアのその発進、着水シーンは上々の撮影である。円谷渾身の演出。

やっぱり古澤監督ということで、ホンマカイナの爆笑?シーンがいくつかある。

池部良や藤田進、清水元などのマジメな俳優のマジメな演技もあるが、一方、夏木陽介、佐藤允、加山雄三などが豪快?にトボケてみせる。また、はらはらドキドキもある。 兄を夏木に殺された中国娘の浜三枝が、また日本兵に協力するという説明不足があるが、これも古澤監督らしい。細かいことにこだわらない。

ネタバレだが、私がイスから転げ落ちたシーンは米軍ジープが出てくることだ。大正3年ごろの話なのである。

この映画、古澤憲吾監督と円谷英二特技監督という異色のコンビによる、特撮史にのこすべき傑作である。

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