« 巴里よ! これが翼端灯だ | トップページ | 特撮の妙技 »

南海の花束

円谷英二の特撮、作品AS-1

1942年、東宝、白黒、スタンダード、106分

監督- 阿部豊

-------------------------------------------

 飛行機マニア垂涎、九七式飛行艇の鮮明な実写映像が観られる貴重な映画。と同時に円谷特撮・演出の原点を見いだせる作品。

 円谷は劇中の約40カットのスクリーン・プロセスからミニチュア特撮までを任された。

 映画の脚本には、飛行機が墜落する原因などもいっさい詳細に書かれておらず、それらのアクション、カット割もすべて円谷に一任された。

Dscf0001_medium

↑嵐の中を着水する一五式水上偵察機?。着水スピードが速く実写感に不足があるが、ミニチュアの動きがギクシャクしておらず、滑らかな操演。尚、同じ構図が後の「青島要塞爆撃命令」にも出てくる。

Dscf0002_medium

↑偵察機は停泊するためエンジンを廻しながら反転。ミニチュアは小さいがハイスピードカメラの回転が適切で実写感がある。

Dscf0003_medium

↑嵐の中を水平飛行する九三式中間練習機?。カメラは飛行機を追って手前の椰子の木へとパンする。飛行機までの距離感が分かる演出。尚、同じ構図・アングルの実写映像があるので、この時期から円谷は実写と特撮映像のつながりを大事にしていることが伺える。

Dscf0007_medium

↑海面に着水、砕け散る練習機。バックの暗雲と波しぶきの演出がすばらしい。ミニチュアが小さすぎるのが難点。爆薬で砕くわけにもゆかず、なかなか難しいカット。

Dscf0009_medium

↑手前に向ってゆっくり(プロペラ飛行機に見合った速度で)堂々と飛行する九七式飛行艇。この映画でもっとも素晴らしいカット。ヒコーキマニアも納得するだろう。

Dscf0012_medium

↑海面への落雷。2コマを使って2度合成されている。

Dscf0013_medium

↑落雷により水しぶきが上がる。これは映画のウソで、実際はありえないことだが、落雷が原因で墜落を匂わせる演出。名シーンといってよい。

Dscf0014_medium

↑旋回する飛行艇。ワイヤーワークではオペレーターの手の震えが禁物であるが、このカットも機体がフラフラと揺れてなくて実に滑らか。これも素晴らしいカット。

Dscf0018_medium

↑落雷のトラブルにより炎上する飛行艇。アップシーンにもかかわらず、ミニチュアが小さく、ハイスピート撮影でないのでミニチュア然となってしまったカット。こういうエラーを円谷は後々まで続けてしまう。

Dscf0017_medium

↑やはりミニチュアが小さい。これはスタジオの大きさにも関係してしまうので止む終えないことだろうか。炎上アップのカットのみ拡大サイズを作るべきだったと感じる。

 尚、着水・墜落シーンやカットは実写映像、特撮とも左から右へと機体が動き、画面の統一が図られている。実写ラッシュを映写するスタジオで、特撮映像との繋がりをイメージしている円谷の姿が想像される。

|

« 巴里よ! これが翼端灯だ | トップページ | 特撮の妙技 »

円谷英二の特撮」カテゴリの記事

コメント

1942年と言ったら、戦時中の映画じゃないですか。特撮シーン中心に作られているのですか?実写とつながるようにするには、苦心があったでしょうね。いろいろな意味で本物ですね。

投稿: マーちゃん | 2012年4月10日 (火) 14時55分

こんばんは。

掲載された各シーンからは、円谷英二の丹念な仕事ぶりが確り伺えますね。激しい雨風が航空機に容赦なくたたきつける様子も中々迫力がありますし、実寸でのスケール感を醸し出すための立体的な構図作りにもぬかりなく、流石の職人技と言えましょうか。

ただ墨さんもおっしゃられていたように、戦後の彼の一連の作品まで続いてしまう、適切な撮影速度の処理を行わない小スケールのミニチュアの接写が折角丁寧に築き上げた映像のリアリティを相殺してしまう点が非常に惜しいですね。


この「問題」もまたスケジュールや予算の制限に原因があるのでしょうか。若しも円谷、引いては東宝が(勿論その他の本邦の映画製作会社も)がハリウッド並みの規模での制作環境下にあれば、また違った映像が拝見出来たのか、やはり興味は尽きませんね。

余談ながら、あの黒澤監督も実は「ゴジラ」等、怪獣、特撮ものに興味を少なからず抱いていたとのことで、土屋嘉雄の「監督も(ゴジラ映画)どうですか?」との問いかけに乗り気な姿勢を見せていたそうです。

この話を知った上層部が後に土屋氏本人を呼び出し、注意と苦言を呈したとか。

「黒澤氏の完璧主義を金のかかる特撮ものに差し向けられては、会社の資金が持たない」。

やはり納得のいく画作りには先立つものが先ず必要不可欠で、円谷氏も予算のやり繰りに四苦八苦したのかもしれませんね。

投稿: ワン | 2012年4月10日 (火) 21時24分

太平洋戦争が始まって1年目の作品ですが、戦争臭さやプロパガンダはほとんどありません。それに画質・音声も比較的良く、昭和20年代の作品のようです。若い田中晴男さんや杉村春子さんが見ものです。

飛行艇乗りの話ですが、航空郵便に携わるパイロットの物語です。題名が平和的ですよね。機会があればご覧ください。
円谷の特撮も白黒ゴジラを思い起こすものです。

投稿: アラン・墨 | 2012年4月10日 (火) 22時31分

ワンさん。こんばんは。
黒澤のそのエピソードは存じませんでした。
そうですか。完璧主義の黒澤に特撮映画をやらせたら会社は倒産ですか。なるほど。

円谷は失敗と思われるカットも取り入れていますから会社としては融通が効いたのかもしれません。

黒澤の「夢」は唯一、特撮映画的ですが、ハリウッドにまかせた富士山の噴火シーンやゴッホのエピソードでのハイビジョン合成は、はっきり言って失敗だと思います。また、当初の脚本にあった、世界中の兵器が無能になるというSFの物語も映画化を断念していますね。やっぱり天皇も妥協せざるをえないことがあったようです。

投稿: アラン・墨 | 2012年4月10日 (火) 22時44分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/412224/44810591

この記事へのトラックバック一覧です: 南海の花束:

« 巴里よ! これが翼端灯だ | トップページ | 特撮の妙技 »