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煙突の見える場所

煙突の見える場所 [DVD] DVD 煙突の見える場所 [DVD]

販売元:バップ
発売日:2005/09/22
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邦画メモ、NO,61、NHKBS

1953年、新東宝、白黒、スタンダード、108分

監督- 五所平之助、撮影- 三浦光雄、音楽- 芥川也寸志、

出演- 田中絹代、上原謙、高峰秀子、芥川比呂志

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 初見の時はたいして印象にない映画で、ただ、今まで観てきた高峰秀子出演の映画では一番彼女がステキに見えた作品だと思った程度。 下宿の自室で安っぽい作務衣みたいな黒い普段着の姿の彼女がカワイイ。高峰28歳の時の作品。彼女の年齢は昭和の年号と同じである。

 芥川比呂志が長セリフを喋っている演技を初めて観た。私にとって彼は「どですかでん」のイメージが強烈で、物も言わず、目を瞬きしない得たいの知れない俳優だったのだ。そんなに芝居が上手いようには見えないけれど、相変わらず頬がコケていて病弱な感じだなー。

 昭和28年の東京足立区北千住の町並みや生活が良く分かる。クルマに載せたカメラによる横移動撮影の下町風景は、後にゴジラが踏み潰し蹴散らしていった町並みである。2階に高峰と芥川を下宿させている田中絹代と上原謙夫婦の住む借家は、戦後のバラックをちょっとましな程度にしたくらいのあばら家で、つぎはぎだらけの襖や戸は閉めてもピッタリと閉まらない。

 ちょっと大声の会話も近所にまで筒抜け状態で、捨て子を無理やり預けられた上原・田中夫婦の家に顔を出した2.3軒向こうにあるラジオ修理屋のオッサンも、すべて事は周知済みで、二人に事情も聞かず「子供はさずかりものですよ」と話しかけるのも笑ってしまう。

 下宿している独身の男女、芥川と高峰の部屋が、襖一つ隔てただけというのも驚きであるが、考えてみれば、日本旅館の宿泊ではこういうこともあったものだ。ただし、その女の高峰は襖に男が部屋に入ってこれないよう、カンヌキみたいな簡単なロックをしていて笑わせる。

 笑わせるといえば、芥川が高峰におみやげとして買ってきた鯛焼きの薄さ。一個5円だからそんなに安いわけではないが、厚さ1センチもなかった。高峰はペラペラのたい焼きを、わざとフラフラと振って見せる。未来の人に向かって「昭和28年の鯛焼きはこんなんですよ」とディスプレイしているみたいだ。

 この映画が含蓄のある重要な映画だと気が付いて、2度観たのは山本晋也氏の解説による。晋也監督はラストカットの、水面で反射して見える、ゆらゆら揺れる4本のお化け煙突は、フラフラして方向性の定まらない登場人物を反映していると解説した。

 なるほど、この映画のすべての人物はしっかりとした信念を持たず、迷っている。ちょっと違う場所に移動すれば、火力発電所の煙突は4本であることは分かるはずなのに、ずっと3本だと思い込いこんでいた。みんな観念というものにとらわれている。

 これは、ちょっとした哲学書より、ずっと人間とは何かを暗示させるものではないか。

 ひょっとして、すごい映画なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

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コメント

コメントありがとうございました。
この映画は見逃していた1本でした。
いま、アラン・墨さんの文を読ませて頂いていて、終わりのほうで思わず「あぁ、そうか」と気付かせていただきました。ありがとうございます。あの4人と4本を結びつけるものについてですが。ほかにも意義付ける何かがありそうな気もしてきます。あとで自分なりに考えてみたいと思います。

避妊日をチェックしてあるあのカレンダー。それに関連した夫婦の会話は当時を反映していて感歎しました。私達も実践していましたから。五所平之助監督は立派な自然主義文学者だと思いました。私は未見ですが、確か彼のデビュー作ではなかったかと思いますが、「マダムと女房」にもそのような一端が覗かれると、何処かで洩れ聞いた覚えがあります。機会を捉えて是非観たい映画です。

投稿: アスカパパ | 2011年6月12日 (日) 13時40分

アスカパパさん。こんにちは。
私はこの映画、もう一回観ました。都合3回観ましたが、やっぱりいい映画でした。最初はラジオや赤ん坊の騒音が不快だったのですが。
ダメ男・田中春男さんの位置づけも重要な感じがします。登場人物も映画を観ている自分も、ちょっとつまづけば、ああなるかもしれませんね。
荻野式家族計画の描写もアスカパパさんのご指摘と同じ感想を持ちました。
五所監督が自然主義文学者というのも勉強になります。
「マダムと女房」も見たい作品の一つです。

投稿: アラン・墨 | 2011年6月12日 (日) 16時06分

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受信: 2011年6月12日 (日) 13時44分

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