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「サンダーバード」の魅力

 サンダーバードを作った男 ジェリー・アンダーソン自伝 サンダーバードを作った男 ジェリー・アンダーソン自伝
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特撮メモ、NO,32

サンダーバードの特撮、NO,1

1966年、4月10日、日曜日、NHKで午後5時40分から始まった「自然のアルバム」のエンディングテーマが終わり、午後6時となった瞬間を今でも覚えている。「サンダーバード」の日本初放映の時間であった。

8歳の少年には、なにもかもショックだった。私のミニチュア特撮の基礎概念は、この番組から確立された。

その魅力を、私のつたない文章力では、とうてい一批評としてまとめて書ききれない。そこで第一話「SOS原子力旅客機」を例に箇条書きでメモする。 この作品は「サンダーバード」のイントロデュースとしての役割を果たしている。全メンバーの紹介と国際救助隊のポリシーを謳っている重要な作品であり、かつ、全作品を代表する優れた作品となっている。

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・ 音楽のすばらしさ

  バリー・グレイ作曲・指揮するアコースティックなフル・オーケストラのマーチには今だ血湧き肉踊るものがある。また劇中の危機が迫った時の音楽、巨大な物体が移動しているときの音楽、解決したときのファンファーレ、それらすべてのシンフォニックなオーケストレーションが完璧で、長編映画音楽のような重厚感、満腹感がある。 

ただし、私は、後に日本の民放で、30分の前・後編番組にされてしまった際、第2テーマにつけて流された日本語歌詞の歌は、せっかくのオーケストラのオリジナルを潰して台無しにしてしまっていると断言したい。 私は子供のときから、このとってつけたような歌には耳をふさいでいた。 

・ ミニチュアの遠近感のすばらしさ。

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  これはミニチュア撮影の基本であろうが、狭いスタジオ内で実にうまくセットを組みつけている。番組の冒頭、「ビデカラー」および「スーパーマリオネーション」というタイトルバックの製油所らしきミニチュアセットは、手前右に立ててある鉄骨タワーと、はるか遠景に見える工場群は、恐らく1メートルも離れていない。それは、遠景の爆発火炎が瞬時に鉄骨タワーに飛火することで確認できる。箱庭のような小さなセットを、いかにうまく遠近法を利用して広大な場所に見せているかが分かる。

・ 地面スレスレの撮影。

Dscf0066_medium Dscf0068_medium ミニチュアセットはスタジオの床に組みつけてあるのではなく、台の上にある。それにより、カメラをセットの台上、ギリギリの高さにセットでき、レンズのマジックも利用して地上の物体や建築物の巨大感を引き出すことに成功している。つまり、ミニチュアに対して地面に立つ人の目の高さにカメラがある。

・ 巨大飛行機メカ、重機メカの動きが物理的に合っている。

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  意外と小さいミニチュアメカなのに、巨大感・重量感があるのは、始動・減速の際の加速度をうまく演出しているから。 サンダーバード2号の離着陸、コンテナギアの上げ下げなどが特にうまい。 これの悪い例としては「ウルトラマン」のビートル機の操演であり、離着陸では、いきなり「ドスン」と動かしてオモチャ感を出し、失敗している。 

・ 照明、ハイスピート撮影のすばらしさ。

  スタジオ内撮影なのに、実写の昼間のような臨場感ある映像になっている。どうやってライトを当てているのだろうか。日本のスタジオ特撮映像では絶対マネできない照明。ハイスピート撮影は恐らく5倍以上で回しているだろう。この撮影が、いかなるシーンでも安定していて、爆発やメカの動きに対して物理的な実写感を盛り上げている。これに対して日本の特撮では、不可思議なことだが、通常の回転で撮影することもあり、チョコマカとしたオモチャ的動きがよく見られる。(情けない話だが、使えるフィルムが乏しいという事情もあるようだ)

・ ウェザリング(汚し)のテクニックのすばらしさ。

  滑走路のタイヤ跡、メカの汚れ、ジェット排気の汚れ、ビル壁汚れなど、「サンダーバード」のスタッフの「汚し」の仕事は私が観てきたものでも最高といってよい。これは特撮監督、デレク・メディングスの指示による。

・ パイロテクニックのすばらしさ。

  爆発・炎上も、この特に小さいセットのミニチュア撮影としては、世界最高のものである。炎と飛び散る破片・土煙は、もはや芸術といってもよい。それは火薬・油の絶妙な調合と破片・土砂のセッティング、そして適切なハイスピード撮影と照明の賜物である。日本のテクニックの比ではない。

・ 音響・効果音のすばらしさ。

  ジェットのタービン音、爆発音、鉄骨材料の砕ける音、等々、すべて手抜きなしで入れてある。アカデミー音響効果賞ものといってもいいだろう。日本の映画、特に東宝映画の効果音の手抜きがひどいので特にそう感じるのかもしれない。

・ ミニチュアメカに見られる油圧的動作の細かい演出。

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  これは物理的動作としても言えるのだが、キャタピラメカなどの車輪の上下動や油圧アームなどのメカ動作がちゃんと演出してあるということ。この第一話では、コンテナから出動するエレベーターカーの車輪や上のステージを支える油圧サスペンションが、まるで実物のようにスムーズに動いており、日本の特撮ミニチュアのようにギクシャクした動きのオモチャに見えないこと。

  円谷英二・特技監督「世界大戦争」における1シーンで、同じように、輸送機格納ドアから搬出されるミサイルを載せたトレーラーのゴトゴトした動きと比較すれば、この違いが分かる。

・ 車輪からの土煙も演出してあること。 細かい演出。

・ 巨大なドアや扉もモーターのように滑らかにゆっくり動作し、実物感を演出していること。

  2号コンテナ格納扉の開き方、サンダーバード基地の2号格納庫、1号発進プールの開き方など、これらの動きも実際にギアードモーターなどを使用しているかのように、スムーズに作動し、巨大感を演出している。これは人の手で糸を引っ張り、動かすという方法がほとんどだが、実際にモーター駆動なのかもしれない。それに、こういうシーンでもハイスピード撮影しているのだろう。ギクシャクしていない。スタッフの操演センスもいい。

・ ロケット噴射の演出のすばらしさ。

  あのロケットの火炎・煙は実際の推力を感じさせる細長いスマートな噴射で、モデルの巨大感と飛行体の存在の演出に貢献している。 この火薬はイギリスの火薬会社に特注したもので、日本の特撮マンもマネができない。

  少年時代の私は、日本の特撮物ロケットの、屁みたいな火炎噴射の情けなさに憤慨し、どうして日本のスタッフはイギリスに行ってこの火薬の秘密を探ってこないのかと嘆いたものである。 尚、この火薬は映画「地球は壊滅する」の核ミサイル、映画「月ロケット・ワイン号」のミニチュアにも利用されている。

・ 飛行機メカのデザインのすばらしさ。

  登場する飛行体の制作にはプラモデルなどの部品を一部使用しているが、そのためか航空力学的にも、実際にありそうなデザインとなっている。サンダーバード2号などは、実際にラジコンにすると飛んでしまうのだ。 この第一話に登場するマッハ6で飛行する素敵なファィヤーフラッシュ号は、当時、アメリカで開発していたXB-70「バルキリー」のデザインの影響を明らかに受けている。

  特撮監督のデレク・メディングスはイギリス空軍でトラックの運転手だったそうだ。またジェリー・アンダーソンの兄も空軍にいたということで、基本的にヒコーキ好きがスタッフに多い。 

  ファンには怒られるかもしれないが、「サンダーバード」の影響を受けたこと大の「ウルトラセブン」に登場する飛行メカは、実際に空を飛べるように見えるだろうか。私にはそうは見えない。

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まだまだ書ききれない魅力がたくさんある。これからも随時メモしていきたい。

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サンダーバードの特撮」カテゴリの記事

コメント

サンダーバードの記憶はありますけれど、それがリアルタイムだったかどうか・・・。スタンリーさんは8歳だったのですね。はっきりと放送を覚えていらっしゃるのは、記憶力の良さもさることながら、それほどインパクトが強かったのでしょうね。
箇条書きにされているのを読ませていただいて、びっくりしました。サンダーバードは、高い技術力によって生み出された傑作だったのですね。
そうそう、「スター・トレック」がもうすぐ公開されますね。映画版は昔観ましたけれど、今回のはどうなんでしょうねぇ。

投稿: マーちゃん | 2009年5月27日 (水) 23時18分

マーちゃん。おはようございます。
マニアックで長い文を読んでいただきありがとうございます。
サンダーバードのスタッフは狭いスタジオであれだけの効果を出していたのですね。脱帽ものです。予算も1本あたり25000ポンドかけたということですが、2000万円くらいでしょうか。やはり日本とは気合のかけかたが違います。人間は8歳から10歳くらいが一番成長する時期でしょうか。記憶もインパクトがあります。
「スタトレ」のコマーシャルを時々観ますが、なんだか後期のスターウォーズのように派手でゴチャゴチャとした画面ですね。VFX映像も飽きちゃったですね。あまり期待していません。

投稿: スタンリー | 2009年5月28日 (木) 09時20分

初めまして、こんばんは。サンダーバードは誰もが知る(と思いますが今の若い人はどうだろう、映画も少し前に封切られましたが、ヒットしていないみたいですし)メジャーな特撮人形劇の傑作ですが、まさかそこまで丁寧かつ念入りに作りこまれているとは露ほども想像していませんでした。

一つ一つの箇条書きされた項目を拝見して、私も思わず感嘆と羨望の唸りを(心の中で)
上げてしまいました。ミニチュアを用いた撮影はミニチュアの出来は勿論の事、その撮影自体にも非常に繊細で緻密な作業が必要だという主旨、主張(事実と言うべきか)が私には痛いほど良く伝わる気がしました。

「ウルトラセブン」は自分の幼少期に随分肩入れして視聴したり(再放送ですが)、ムックなど関連書籍に見入った記憶があり、今でも(ウルトラシリーズの中でも)指折りに嗜好するお気に入りの作品ですが、「好きである」という事と「(作品の内容に対して)不満がある」という事は自分にとって夫々の感情のベクトルの向きが異なる風潮や傾向は文字通り残念ながらしばしば生じます。

例えば劇中に表現された宇宙の書割りに殆ど広がりを感じないし、その些か安っぽい宇宙空間に忽然と浮かんでいる地球の姿はあまりにも模型然としていて、巨大感、重量感の何れも感じられず拍子抜けしたほろ苦い記憶が今でもまざまざと蘇りますね。明らかに作り物と分かる地球に向かう宇宙船、ロケットもまた同様に縮尺の呪縛を逃れられず、尚後部から噴出される推進のバーナーはそちが今回の本分で述べられた通りの出来栄えです。

枚挙に暇ない不満に対して「ミニチュアの美学」とか「脳内変換によるイメージ補完」とかお茶を濁されると一層胡散臭い欺瞞の臭いを感じ取って挙句なし崩しに辟易してしまいます。「裸の王様」ではありませんが、思わず「ミニチュアにしか見えない(本物と恣意的に思い込む姿勢は間違っている)!」と叫びたくなる衝動に駆られます。いえ、実際にはありませんが・・・。

当時の作り手に如何なる感情や思惑が篭められていたのか、時間も空間も共有する事など叶わない一介のファンとしては、稚拙な推測の域を出ないとしても、若しや「子供(酷い言い方でガキ。)向け」としてどこか軽視し、その仕事に携わる自分自身をあまつさえ自嘲する愚行を犯していたのであれば、それはとてもやるせなく悲しい話ではありますね。決してそうではなく、諸々の技術的、予算的なタイトな条件や制限によって高くまた純粋な志向が遮られた結果である、とこちらは思いたいし、夙に思うようにしていますけど・・・。

先にも申し上げたように私自身「セブン」は大好きな作品には変わりありませんし、故に辛口な視線と批評を多少気持の均衡を崩して表現してしまっています。「セブン」に限らず本邦の特撮関連の映像表現に対して燻っていた思いを今まで素直に苦言として呈したり、批判を加えたりする場所も相手も私の周辺には見出せも見受けられもせずにいました。そんな一人悶々としていた矢先(まあ、流石にいつも思い悩んでいた訳でもないですが^^;)こちらのサイトをお見かけし、深い薀蓄と造詣に先ず圧倒されブログに綴られた一つ一つの文章をとても興味深く拝見させて頂く正しく稀有で貴重な機会を得られました。

何より、ミニチュアワークとその撮影方法、手段に対する数多のご意見は詳細な知識に裏づけされた並々ならぬ説得力に富まれ、私の長年の疑念を鮮烈に解消させ、掛け値なしにすっきりと溜飲の下がった爽快感を覚えました。そういう意味でも些か奇妙な態度ですが、改めて御礼を言わせて下さい。私の長年の心中に巣食った靄を綺麗さっぱりと取り払って頂きまして本当にどうもありがとうございました^^。

ご迷惑でなければ、またちょくちょくこちらに立ち寄らせて頂きますね。それでは失礼します。長文、大変失礼しました。


追伸:プロフィールも拝見させて頂きましたが、クラシック音楽は私も大好きなんですよ。今はロベルト・シューマンの「ピアノ協奏曲第一番イ短調」を部屋のBGMに流しています。ラフマニノフは「パガニーニの主題による狂詩曲」を良く聴いています。

投稿: ワン | 2009年5月29日 (金) 20時33分

ワン様、長文のコメント、恐縮です。ありがとうございます。また、当時の日本の特撮物を愛しつつ、疑問を投げかけておられたという、するどいご指摘の文章も私自身、おおいに同調するものでありました。少年時代の私は、「サンダーバード」やアーウィン・アレン番組の特撮の出来のよさに感嘆し、巷で聴かれる「円谷は特撮の神さまだ」、「日本の特撮は世界一」という「伝説」に疑問を感じていました。この思いは今でも変わらず、ブログを通して、意見を述べさせていただいいます。検索により、どなたかが、批判でもよいから、意見をしていただければと期待しておりましたが、ワン様の内容の濃いコメントいただき、ブロクを書いてきたかいがあったと、たいへん喜んでいます。
私はアンチ日本特撮という姿勢でもなく、優れた映像には、おしげもなく評価しています。ただ、海外の名も知れぬ特撮マンの素晴らしい映像に、どうしても目が向いてしまいます。しかし、日本の特撮には、予算と制作期間の制約があまりにも多すぎて、一概に批判できないところがあり、係ったスタッフへの気遣いには気をつけているつもりです。でも、日本のテレビでの特撮は「子供だまし」どころか、子供にも騙せなかったものがありましたね。
「ウルトラセブン」はメカの発進シーンなどに印象があります。一番好きなメカはα・β・γ号です。最終回には、たしかシューマンのピアノコンチェルトが使われていましね。私もこの曲は大好きです。ただ、第3楽章の終わりはちょっとシツコイですが。笑
ラフマニノフのラプソディーもルービンシュタインの演奏を愛聴しております。18変奏にはいつも単純にウットリしています。笑

投稿: スタンリー | 2009年5月30日 (土) 10時02分

スタンリーメタボリックさん、お久しぶりです。
 特撮に関する造詣の深さと、サンダーバードに対するスタンリーさんの想いを強く感じました。
 スタンリーさんが書かれた”魅力”に注意しながら、サンダーバードのDVDを観なおしたいと思います。

投稿: 雷おやじ | 2009年6月 1日 (月) 20時44分

雷おやじさん。こんばんは。
ようやく「サンダーバード」にたどりつきました。暖めてきたテーマですが、私も全作品を再確認したいと思います。例えば第二作目の大穴に落ちたメカから吹き出る黒煙などの描写はすばらしいですね。一作一作に感嘆するシーンが必ずあります。私の文に、もし間違いなどありましたら、遠慮なしに訂正コメントをしていただきたいと思います。ご協力をお願いいたします。アンダーソンの「サンダーバードを作った男」は一番参考になる資料でした。

投稿: スタンリー | 2009年6月 1日 (月) 22時09分

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