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「素晴らしき日曜日」のナゾ

素晴らしき日曜日<普及版> DVD 素晴らしき日曜日<普及版>

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黒澤監督の「素晴らしき日曜日」は1947年、昭和22年6月封切の映画である。

35円という予算で、日曜日に恋人同士がデートする話であるが、前々から疑問に感じていたことがあるので、ちょっと調べて推理してみた。

その疑問とは、35円という価値と二人の移動距離である。

35円という価値がサッパリ見当がつかないので、当時の物価、収入で推測すると。

・労働者の平均月収・・・1950円、教員の初任給・・・2000円、

・山手線初乗り・・・50銭、米10キロ・・・150円

・駅弁・・・5円、 銭湯・・・2円から3円に値上げ

これを考慮すると35円というのは、現在の3500円くらいと単純に計算する。

中北千枝子(昌子)と沼崎勲(雄造)・・・・二人の役名は、映画の中では一瞬しか語られてなく、観客には分かりにくい。・・・・は、ある駅で落ち合うが、その駅名がよく分からない。ホームでのアナウンスを聞くと、ボンヤりと「オワトミナミ」と私には聞こえるが、こんな雰囲気に聞こえる駅名が東京にはあるだろうか。

これは多分、出発点をわざとアヤフヤにしたものと思う。駅のホームでの撮影は、いろいろ制限があり、撮影しにくいので、たまたまフイルムライブラリーにあるものを使ったのではないだろうか。そしてその駅がどこか分からなかった可能性がある。そこで駅名をボカシタのだ。

さて、二人はまず最初、振興住宅のモデルハウスに行く。10万円という価格の住宅は新宿1丁目に建つらしいのだが、このモデルハウスの場所は分からない。

10万円の家も、とうてい望み薄いと思い、次ぎに二人は6畳一間の間借りを見に行くが、ここで二人合わせた月収が明らかになる。

それは1200円だ。今だと12万円、ずいぶんと安い。

この間借り(日光が当たらず、窓を開けると隣の工場の便所が見え、発疹チフスが発生しそうな部屋)の賃貸料は月600円で、権利金2000円必要となる。

この費用すら二人には捻出できない。

次ぎのシーン。子供たちと野球をして、ファウルボールが中村是好演ずる饅頭屋に飛び込み、饅頭三つを弁償するハメとなるが、饅頭一個オマケしてもらい、ここで10円支出となる。

この饅頭がベラボーに高い。今なら一個500円というところか。当時は砂糖が統制されており、入手は困難だと思われ、代用のサッカリンなどが一般に使われていた。甘いものに飢えていた時代であるが、この饅頭はほんとうの砂糖を使っていたのでこの値段なのかもしれない。同年封切の小津作品「長屋紳士録」には、どら焼きを食べるシーンがあり、砂糖を使った本モノであると思わせるセリフを発している。

---- ここまではナゾの駅「オワトミナミ」での話し ----

さて、二人は西銀座(友人の名刺で場所が判明)のキャバレー「ドラム」に行く。当然電車に乗ったであろう。電車賃2円くらいは使ったと思う。

残り23円。

その後、空き地でオムスビとタクアンの昼食をとり、子供(フロージ・・・漢字変換できないので、既に死語になっているか)にもオムスビを一個与えるのだが、なんとこの子供は10円札を何枚か持っている。

----- ここまでは西銀座での話し -----

子供の存在に打ちひしがれた二人は気分改め、動物園へと向うがそこは上野だろうか。そうすると銀座から電車賃を2円ほど使う。そして入園料二人で2円。

残り19円。

----- ここまでは上野動物での話し -----

動物園の後、二人は東京公会堂での「未完成」(黒川今朝夫指揮、帝都交響楽団)演奏会に行く。ここは日比谷公会堂のことと仮定すると、そこまでの電車賃が2円。 入場料はB席10円。今なら1000円というところか。大変良心的な値段。もっともヨーロッパでは学生用にこれくらいの入場料のところがある。

ここで演奏会のポスターを見ると、日付が昭和22年2月16日となっていて、暦では確かに日曜日である。脚本にウソはない。

しかし、堺左千夫のダフ屋にキップを握られ、入場を断念。

ところが残り17円のままでは10円の入場料2枚は買えない。もう赤字になっている。

そこで、昌子の言った言葉を思い出す。「私、20円ちょっとあるわ」・・・そのちょっとを5円と仮定しプラスすると・・・

残り22円。

------ ここまでは日比谷の話 ----

どん底の気分となった二人は雄造の下宿に行く。ここがどこか分からない。仮に品川あたりとすると、ここまで、電車賃2円。そして近所のミルクホールで5円と思って注文したコーヒーが薄いミルクコーヒー10円になっていて、お菓子の5円と合わせ、二人で30円になっていた。

この値段は高すぎる。今なら3000円である。あのウエハースのようなお菓子が5円というのもひどい。ここでは有り金のすべて20円払う。残金は翌日の払いとして、ここで10円の赤字発生。

これで今日の残りゼロ。

------- ここまでは雄造の下宿、品川の話 ----

ここで予算がつきた。雄造の下宿には多少、ヘソクリがあるかもしれない。

その後、焼け跡で、空想喫茶店ごっこ、どこかの公園でブランコ遊びをするのだが、いつまのにか野外音楽堂に来ている。ここはやはり日比谷ということだとすると、品川から有楽町まで、電車賃2円

雄造は「未完成」を指揮し、駅で二人は解散。帰りの電車賃は二人で3円はいるだろう。雄造は昌子をホームで見送った後、別方向の電車で帰宅するのかもしれない。

つまりこの日のデートは合計15円の赤字ということになる。

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コメント

まぁ、鋭い分析ですね~。米10キロが150円ということは1キロが15円。お饅頭が2個10円ということは、お饅頭3個で米1キロが買えたということですね。やはり、高すぎます。看板に「本当に甘い饅頭」とあるので、甘くないお饅頭があったということですねぇ(笑)。
待ち合わせた駅はどこなのでしょうね。駅の賑わいからすると、山手線の駅のような気がします。
ふたりの月収を合わせて1200円とは・・・・。ダフ屋にインチキ喫茶店、「ヤミの商売をしなきゃ、まともな収入が得られない」と、ぼやいてましたものね。そんな時代だったのでしょう。
言葉使いからも、時代を感じました。車を自動車、デートはランデブーですものね。
下宿に戻った時にお金を持ち出したのかもしれませんが、あのふたり、デートで全財産を使い果たしたとしたら、翌日からの生活費はどうしたのでしょうか?デート日が給料日の直前だったのか、日給なのか、週休なのか・・・不思議です。お金を計画的に使えない二人と見ました(笑)。長々とスミマセン。

投稿: マーちゃん | 2008年5月26日 (月) 23時47分

マーちゃん。おはようございます。
ほんとうに甘いものは高かったみたいですね。
オープニングの駅はどこでしょうか。マニアなら分かると思います。手をつないで駅まで走って行く、隠し撮りのシーンは新宿らしいです。
ヤミ屋はこの当時カッポしていましたね。「悪名」なんかで分かります。私はミルクコーヒーという言葉が古く感じます。まだカフェオレなんて無かったでしょうね。
ロマンチックと言う言葉も原題では恥ずかしいです。
2月16日のデートなので給料日は先ですね。
前借したか、質に行ったか。
あらかじめ行くところを決めておけば35円でも十分デートできたでしょうが、いきあたりばったりではねー。
それにしても、沼崎は最初から不機嫌で、常にブツブツ言ってて、今の女の子だったら、怒ってさっさと帰ってしまうでしょうね。

投稿: スタンリー | 2008年5月27日 (火) 08時38分

「素晴らしき日曜日」のナゾ、興味深く拝読しました。私はこの時代に日記をつけていますが、間違いなく1947年2月16日は日曜日です。なお、天候は曇風強しとなっています。甘い食べ物は仰る通り殆どサッカリンで、ズルチンもありました。食べ物の物価に関する記録を探しましたら、下記のような記録がありました。
--------------------
12月17日おん祭でうっていたもの
くしがき1本7円50銭
みかん百匁2円(註:当時は尺貫法でした)
だんごもち4ヶ5円
あんもち1ヶ5円
わらびもち50銭
もち1ヶ2円
あまざけ1円
12月18日今日うっていたもの
もちのてんぷら2ヶ5円
もち1ヶ2円
ぜんざい1ぱい5円
かやく汁1ばい1円
てんぷら1ヶ1円
みかん百匁2円
するめ百匁4円50銭
こよみ3円、1円
12月19日うっていたもの
関東に50銭
たばこのきかい2円
ぎんなん2円
日米会話1円
12月28日
小あじ百匁6円30銭
----------------
ということで、映画に登場する饅頭は砂糖入りだったので高価だったのかもしれませんね。なお、砂糖は進駐軍から闇ルートで入手できたようで、当時、青空(露店)売場で「砂糖は進駐軍の砂糖」と言いながら、ドーナツを売っていたのをこの眼で見ています。
次に映画に関する記録ですが、11月21日(金曜)曇。中央映画劇場に「ブルックリン横丁」を見に行く。代金7円。とありました。

投稿: アスカパパ | 2008年6月 7日 (土) 21時59分

アスカパパさん。こんばんは。
大変貴重な情報ありがとうございます。
こうして見ると、くしがき7円50銭は高いですね。うそのない甘さのものが高いということですか。
あの当時の砂糖の横流しは社会問題でったのですね。
私の入手した情報はだいぶ前に発行された毎日新聞発行の年代別のものです。
匁という単位ですが、小津の「早春」のお肉の単位でも出てきますね。
このころは新円に切り替わったすぐで、まだ混乱していたのでしょうか。

投稿: スタンリー | 2008年6月 7日 (土) 23時25分

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