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黒澤映画の録音

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黒澤明が亡くなって10年ということで、あの当時の追悼番組の再放映や特集が盛んだが、そういう番組の対談では故人の悪口を言うのもはばかられ、黒澤のイエスマンたちばかりにより、過去の美談や映像の華麗さばかり語られる。

イエスマンと言われた方は不愉快かもしれないが、黒澤という人物を語るのに中庸を保っている方は土屋嘉男氏と堀川弘通氏のような気がする。

私も黒澤映画は大好きであり、なかには30回を越して観つづけ、愛蔵してきた作品もある。

しかし、ときには黒澤映画に疑問を感じることもあり、今回は技術的なことで指摘したい。 たまには彼の映画へのネガティブな話もいいだろう。

それは黒澤映画の録音が良くないことだ。

彼の映画をはじめて観たのは「七人の侍」であるが、高校生のときである。田舎の映画館なので、それほど音響設備は良くないが、私の耳は丁度もっとも年齢的に聴覚がベストのときだった。

まず、冒頭の野武士が村を襲うかを仲間と相談しているシーンからして良く聞き取れなかった。「なんにもあるめい」だけがかろうじて分かり、だから襲うのを止めると理解できた。だが、麦が実ってからやってくるという予測がつかず、野武士が後で再び村を襲撃する理由が漠然とあいまいであった。

村人が集まり相談しているシーンもサッパリで「神さま、オラたち死んじまえとよ」という本間文子さんの声が一番よく聞こえた。土屋嘉男さんの「あの米はどんなことして手に入れたか」という、野武士と村人の談合の事実を暗示する、とても大事なセリフも、後にリマスターされたソフトにより分かったことである。

話はズレるが、当時の東宝のダビングオーケストラの演奏もひどいなと感じた。特に吹奏楽器の演奏は中学のブラスバンド並みのレベルにしか私には聞こえなかった。

「七人の侍」ではまだまだ聞き取れないところがあった。村の長老の話、小川のそばでの談合する・しないの村人の諍い。等々。

黒澤映画でもっとも録音がひどいのは「蜘蛛巣城」ではないだろうか。

ひどいのは合戦のロケでの三船のセリフで、荒れる馬にまたがって、三船の例のドロドロと聞こえる発音で「ナムサン」という言葉以外、映画館ではサッパリ言っていることが分からなかった。 

これはリマスターされた現在のソフトでも依然として聞き取りにくい。ロケでの収録か、あるいはスタジオでのダビングか判断できないが、ダビングだったらもっとハッキリ聞こえていいはずだ。

もっとも三船敏郎の声質が興奮した場面の演技では、もともと聞き取りにくいというのもあるのだが。

東宝という会社の前身はPCL(Photo.Chemical.Laboratory)であり、トーキー映画を開発・研究する機関だったはずだが、東宝という名前に変えたとしても20年近くたった映画の音があれでは、ちょっとひどいのではないだろうか。

それとも、これは私の大きなカンチガイであり、公開当時のサウンドトラックは、はっきりとした音を出していたのだろうか。

しかし、「影武者」の公開時でも、セリフがよく聞き取れないという指摘あった。試写会では、外人プレス向けに英語のスーパーが入っていたそうだが、ストーリーの展開はそれを読んで分かったという声も聞かれたものだ。

ただし、黒澤映画でも特に音が良くないのは、スタンダードサイズのもので、東宝スコープとなった「悪いやつ・・・」からは、それほど悪くはない。

東宝の録音担当は、そのスタンダード時代は矢野口文雄氏だが、ご在命ならば、事情をお伺うかがいしたいものだ。

東宝スコープ作品でも、私にはどうしても聞き取れないセリフがある。それは「用心棒」の冒頭部分で、三船が井戸の水を乞うた農家のオヤジが、女房の本間さんに向って言うセリフで、

「造り酒屋が絹の仲買始めたの聞いたか」

のこの後のしゃべっていることが、今もってサッパリ分からない。

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日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

「姿三四郎」と「続姿三四郎」を先日のBSで見ました。
ちょっとセリフが聞き取りづらかったです。
古い映画だからかしら?と思ったのですが
それだけでもないのですね。
洋画だと字幕が入るので、録音状態が多少悪くても
セリフがわかりますが、日本映画は耳だけが頼りですものね。

投稿: マーちゃん | 2008年5月 8日 (木) 11時30分

マーちゃん。こんにちは。
「姿三四郎」では大河内サンの声が聞き取りにくいですね。
笑点で林家木久翁がモノマネする人です。もともと聞き取りにくい人ですが。笑
「続・姿三四郎」では月形サンが聞き取りにくいです。
それにしても当時のアメリカ映画と日本映画では録音は天と地ほどの隔たりがありますね。
どこかで聞いたようなセリフ。笑
1941年の「ファンタジア」はステレオ録音ですものね。
「七人の侍」の英語字幕版を見たことがありますが、分かりやすかったですよ。

投稿: スタンリー | 2008年5月 8日 (木) 13時17分

スタンリーさん、今晩は。
毎回鋭い指摘で実に痛快です。「男はだまってサッポロ!」のCMで分かるように三船御大は元来発声術がプア。それに輪をかけ東宝の技術の未熟さでしょうね。同じ東宝の昭和38年頃の稲垣浩監督の「秘剣」(VHSもDVDもありません)、は地味なれど現松本幸四郎(当時は襲名前だから当然市川染五郎)を機会があれば是非ご覧ください。一昨年稲垣生誕100年でBSでも近代フィルムセンターでやってしまったから当分はないでしょうが気長にお待ち下さい。「我、稲垣ここにあり」と言わんばかりの力作。

投稿: ロンリー・マン | 2008年5月 8日 (木) 20時09分

ロンリー・マンさん。こんばんは。
どうも私の書く文章、自分でもヘンな感じがするのですが、それでも評価していただきありがとうございます。
三船はゆっくりしゃべっているといいんです。
「どん底」の捨吉は演技も発声もよかったですね。
稲垣監督の「秘剣」、メモしました。
稲垣監督映画には、凡作もあるのですが、輝いている作品もありますね。いつか観られるよう楽しみにしています。

投稿: スタンリー | 2008年5月 8日 (木) 21時58分

「七人の侍」の録音の悪さは同感です。特に前半部分は日本人でありながら日本語が聞き取れない・・・と言う・・・なんとももどかしさを感じました。台湾で購入したDVDの英語字幕でやっと理解できた・・・ような気がします。
黒澤作品が海外で評価が高いのは、映像が素晴らしいのは勿論ですが、脚本がきちんと翻訳されて理解されているからではないでしょうか。

投稿: ぴろQ | 2008年5月 9日 (金) 04時30分

ぴろQさん。こんにちは。
「七人の侍」の農民のセリフに「談合するしかねーでねーか」
というのがありましたね。
初めて観た当時、談合の意味がわかりませんでした。江戸時代の田舎の農民が「談合」なんて言葉を使うのが思いつかなかったのです。
私も英語スーパー入りのを観て、このシーンにnegotiationという単語が入っていたので談合とわかりました。
これは聞き取りにくいのと意味の分かりにくいのと同時ですね。
もっとも、すぐ理解できなかった私がアホなのですが。笑

投稿: スタンリー | 2008年5月 9日 (金) 10時22分

さすが!スタンリーさん
やはり録音が悪かったんですねぇ。
ここだけの話ですが、三船さんのセリフが聞きづらくて
「七人の侍」、実は苦手でして。。。笑
私の周りも黒澤さん特に「七人の侍」はケナシづらくて
(もちろん名作ですが)
でもスッキリしました。(^∀^)

投稿: ぱんだうさぎ | 2008年5月 9日 (金) 22時28分

「虎の尾を踏む男達」を見ました。
エノケンに魅せられましたよ~。良かったです。
岩井半四郎さんの美しさに驚きました。
ただ、大河内伝次郎さんのセリフが聞き取れなかったです!!
う~ん、残念。スタンリーさんは聞き取れましたか?

投稿: マーちゃん | 2008年5月 9日 (金) 22時46分

ぱんだうさぎさん。こんばんは。
みなさん、そう感じていますよね。
ローカットすれば聞きやすくなりそうですが、
リマスター版でも聞き取りにくいですね。
外国人向けは字幕か吹き替えなので問題ありませんけど。
同じ東宝でも成瀬監督のものなどあまり問題はないのですが、
どういうことなんでしょうね。
ところで私、三船さんのあのドロドロした喋り方のモノマネがうまいんですよ。
「どーした、どーした、元気を出さんか」
ね うまいでしょう?

投稿: スタンリー | 2008年5月 9日 (金) 23時06分

「虎の尾・・・」私も大好きな映画ですよ。!
エノケンさん、うまいでしょう。ちょっとオーバーだけど。
黒澤初のセミ・ミュージカル・コメディーと言ってもいいですね。
岩井半四郎さんは仁科明子のお父さんでしたか。若いもんだ。
白紙の勧進帳を読むところは分からないですね。
DVDは難聴者向けの字幕がチョイスできるかもしれませんね。
大河内さんは九州ナマリのエロキューションがもともと聞き取りにくいです。「先生」が「シェンシェイ」になるんです。藤田進さんもそうなんですがね。「姿三四郎」は九州ナマリ映画です。笑
大河内さんのモノマネも、私、ウマイですよ。

「シュガタ、お前はたしかに強くなった。場合によってはワシより強いかもしれん。 だがお前の柔道とワシの柔道とは天と地ほどの開きがある」
ね うまいでしょう?

投稿: スタンリー | 2008年5月 9日 (金) 23時23分

スタンリーさんにぴったりのサイト発見。「映画評論の部屋 水野重康」。取り敢えずここに入れました。悪しからず。

投稿: ロンリー・マン | 2008年5月11日 (日) 14時14分

ロンリー・マンさん。こんにちは。
そうですか。おもしろそうなサイトの紹介ありがとうございます。
私も時々検索するのですが、キリがなくて途中であきらめてしまいます。

投稿: スタンリー | 2008年5月11日 (日) 14時55分

おはようございます。
「素晴らしき日曜日」を観ました。
映画としては、大変面白かったのですが、
あの女の人のキャラを、ちょっと苦手に感じました^^;
記事に関連しないコメントですみません。

投稿: マーちゃん | 2008年5月25日 (日) 11時59分

マーちゃん。こんばんは。
そうですか。中北千枝子さんのキャラ・・・。
女性の目から見た意見ですか。ナルホド、勉強になります。
戦後間もない頃の倫理観や、GHQに検閲される映画だという前提もありますので、黒沢監督も表現に悩んだかもしれませんね。
監督も、たいへん欠点のある映画だけど、自分の作品では好きな映画であると言っていました。その欠点とは、やっぱり女性の描写でしょうね。

私は沼崎の下宿で、いつまでも泣き続けている彼女と、「いいんだよ」と言い続けている沼崎のシーンの処理に物足りなさを感じました。もうちょっとその後の心理描写ができなかったかなー。と。

観客に拍手を促す、音楽堂のシーンは、ちょっと恥ずかしいけど、今観ると微笑ましく感じます。あのころの黒澤監督も映画表現を模索していて、いろいろ実験したのですね。フランスでは実際に拍手があったそうですよ。 ところで35円の予算でデートするわけですが、今ならいくら位でしょうか。
結局、「未完成」の演奏会は入場できなかったので、饅頭と動物園とミルクコーヒー代ということですが、今なら3000円位ですかね。アスカパパさんなら分析できるかもしれませんね。

あ 中北千枝子さんて、東宝の大プロデューサー・田中友幸さんの奥さんだった人ですね。ご存知でしたか。

投稿: スタンリー | 2008年5月25日 (日) 20時34分

中北千枝子さんのキャラ・・・
キャバレーに行きたい、コンサートに行きたいとゴネて、あんなことになって。沼崎の下宿では近所迷惑も省みず泣き続けて・・・。同性の私からすると、うんざりなのですが、「いいんだよ」と抱きしめる沼崎に???でした。貧しいからといって穴の開いた靴を履き「水が入っても出て行く」と言う、不自然な明るさに違和感を覚えました(汗)。さらに細かいことを言うと、ぎりぎりのお金でデートしているのに、ミルクコーヒーとお菓子を注文してたでしょ、あれもねぇ。3000円ぐらいだと思うのですが、交通費はどうしたのでしょうか?
ブツブツ言ってますが、当時の世相や倫理観がわかり有益でした。手をつないでコンサート会場まで走るシーンは、とっても微笑ましかったです。

投稿: マーちゃん | 2008年5月25日 (日) 22時25分

マーちゃん。もういちどオこんばんは。
ああ、そうか。たしかにワガママこねていますね。
彼女だけでなく、二人とも年齢は25.6歳に見えるんですが、行動は幼い感じがしますね。子供っぽいです。
マーちゃんに指摘されて、もう一度観ようかと思います。
彼女は彼の下宿に連れて行かれるのを遠まわしに避けていたと思います。

あのミルクホール・・・古い言い方・・・笑・・・のウエハースのようなお菓子はコーヒーに付いてきたものだと思います。・・・細かいなー・・笑

電車賃、スルドイですね。どうでしょうか。一区間2円くらいでしょうか。そういえば彼らはどこからどこまで乗ったのでしょうか。上野、渋谷へは行っていますね。そして彼の下宿。今なら一人1000円は使っていますね。35円の予算の分析が面白くなってきました。

手をつないで走っているロケシーンは、黒澤映画では恐らく最初で最後の街頭ゲリラ撮影ですね。シューベルトの音楽がちょっと幼い感じですが、愛すべきシーンです。と、今は思ってしまいます。

投稿: スタンリー | 2008年5月25日 (日) 23時03分

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