「東京上空30秒」の特撮
リアプロジェクションを特撮とするならば、この映画のそれは、たいへんすばらしい。
バックの映像は全くブレておらず、投影も完璧。バックスクリーンと気づかないほどである。
この映画のミニチュア特撮では、完全に円谷英二、およびその弟子たちの映像を凌駕している。
シーン1
B-25の空母搬入。クレーンで吊り上げられる部分。ゆっくりとした動きがいい。艦板に着地するとき、翼が振動する。ここでミニチュアと分かるが上質な撮影である。片一方のアンカーがゆっくり揺れているので、ハイスピード撮影であることが分かる。
シーン2
B-25の空母発進シーン。 空母の前方より撮影。実写では不可能なカメラアングルなので、特撮とわかるが、プロペラ飛行機の堂々とした離陸が良い。ワイヤーは見える。
シーン3
B-25のエンジン全開から空母発進。 飛行機のサイズは翼のスパン2メートルほどのものか。ゆっくりと滑らかに動き出し、円谷物のようにガタガタ・ブルブル振動していない。チョコマカしていない。艦板を滑走・離陸する姿は実写そのもの。ワイヤーは見える。作業員が人形であることが分かるので、実写でないと確認できる。
シーン4
ドーリットルが操縦するB-25が空母後方から低空飛行するシーン。
空母の上空をB-25が飛行する俯瞰シーン。 空母のディテールが良い。その周辺の波が良い。 ハイスピードカメラの回転が良い。B-25はプロペラ飛行機の適切な速度。円谷の操演だと、ジェット機の速度にさせてしまうだろう。
シーン5
東京工場地帯の爆撃シーン3カット。 実によくできた工場群のミニチュア。東京の複雑な道路、細道も徹底的に表現してある。 俯瞰でB-25の飛行を撮影。爆発炎上のパイロは破片と煙・炎上のコラボで、上空高く、バランスよく吹き上がる。ハイスピードカメラの回転も適切。
このシーンがドキュメンタリーなどに使われていた。
シーン6
爆撃の様子をB-25の横窓から後方へ眺めたような、低空横移動の撮影。
これも丁寧に作りこまれたミニチュアを移動とともに、タイミング良く爆破させている。カメラは実際の空撮を模して、微妙に振動させている。円谷にこういう撮影センスはない。
以上がミニチュア特撮シーンであるが、もう1カット、リアプロジェクションをバックに輸送機の水平飛行シーンがある。これはたいした出来ではない。
ミニチュア撮影はすべて野外での撮影と思われる。 太陽光は、実写に近い陰影を与えてくれている。
1942年制作の東宝の「ハワイ・マレー沖海戦」の特撮は、誰がどう見たってミニチュアにしか見えなかった。
1940年代から、アメリカの名も知れない特殊効果マンによる、実写なのか特撮なのか分からない映像づくりが、いかに優れていたかがよく分かる。
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コメント
恥ずかしながら、「東京上空30秒」という映画を知りませんでした。大スターが出演しているので、知名度が高い映画なのでしょうか?いつもながらの、スタンリーさんの鋭い観察力に感服しました。私だったら、実写だぁ~と大騒ぎするでしょうね。飛行機映像でのワイヤーを見破ったことがありません(笑)。B-25見たいですねぇ。
投稿: マーちゃん | 2008年1月10日 (木) 21時44分
マーちゃん。いつもありがとうございます。
「東京・・・」という題名のアメリカ映画だと、またフジヤマゲイシャの勘違い映画のようにみえますが、今回の映画の東京の工業地帯のミニチュアは良くできていました。まだ太平洋戦争のときですから、航空写真を元にしたのでしょう。
ワイヤーはDVDなのでよく分かります。たいへん滑らかな動きです。
レアな映画ですが、GEOにありました。
B-25の実写飛行はカッコイイです。
投稿: スタンリー | 2008年1月10日 (木) 22時07分
スタンリーさん こんばんは
たしかに微妙にニュアンスが違う訳をする字幕って
ありますよねえ。なかには、キャラまで変えられるほど、
言い回しが違うものありますし。。。。
おまけにスタンリーさんのようにメカにお詳しい方まで
敵(笑)にまわさなきゃいけないし。。。。
翻訳家ってタイヘン。。。笑
投稿: P・うさぎ | 2008年1月15日 (火) 23時19分
P・うさぎさん。こんばんちは。
翻訳もセリフより極端に省略しなければならないので、苦労がしのばれます。
やはり、メカ的な言葉は女性の方は苦手のようで、間違いがどうしてもあったりしますね。特にスターが来日すると必ずそばにくっついているアノ人。笑
「タイタニック」では原語では遭難信号をSOSと字幕に出ていましたが、当時はまだSOSという信号は無く、原語ではCQDと言っています。
投稿: スタンリー | 2008年1月16日 (水) 17時04分