« 2001年宇宙の旅  HAL | トップページ | 「ウルトラQ」でのミス »

暖かい、サンソン・フランソワの演奏

 私がフランソワの演奏に触れたのは中学1年ごろであり、1971年のことである。たまたま家にあったEMIのレコードのショバンの名曲を集めたものでだ。 そろそろ生意気になってくる年齢であり、生来のヘソマガリの性格もあり、クラッシックのレコード盤に針を下ろしてみたのだ。 ただし、全くのクラシック1年生ではなく、親父がピアノの教師をやっていた関係で、幼少から、親父の弾くショパンのワルツなどを耳にしていた。

 そのレコードにはおなじみのノクターン、ワルツ、ポロネーズ、エチュード、バラード、スケルツォなどが録音されていたが、そろそろロマンチックなるものに開眼するころであり、やはり一般大衆の好みにならい、ノクターンの2番や5番、「別れの曲」、「幻想即興曲」などにウットリしたものである。 またスケルツォの2番のダイナミックな演奏には興奮したものだが、後になって、フランソワは大変遅いテンポで弾いてることが分かり、自分はなんと他愛の無い人間だとあきれたことがある。

 とはいえ、フランソワの弾くノクターンの2番は、今聞いても絶品である。しかし、この曲は大の大人には、弾くのも聴くのも少々恥ずかしい曲ではある。 ちなみに映画「愛情物語」のテーマといえばお分かりであろう。

 彼は時々、フランソワ節といわれる、くどいテンポルバートを使うが、彼の弾くこの2番もそうだと予想したらどっこい、抑制された絶妙なルバートで、早いデンポでサラリと弾きこなしているのだ。だから彼の演奏を聴くと恥ずかしい感じがしない。

  若いときに聴いた曲や演奏というのは頭に一生残り、それがスタンダードになってしまう。 だからこの曲では、他のピアニストによって、ルバート過多のセンチメンタルで感情をこめた、恥ずかしい演奏を耳にすると、私はフランソワの演奏が定番として頭に刻み込まれているから、とても聴いていられない。

 それから彼の弾くピアノ演奏はなぜか私には大変暖かく感じられる。 特にそう感じるのはエチュードの3番で、日本だけで「別れの曲」と呼ばれているアレの演奏だ。 声の高いお兄さんのヒットした歌で「おじいさんの古時計」という歌がありますね。 あの曲のメロディーが「別れの曲」と似ていることもあり、私にはフランソワの弾くピアノの音で聞くと、 暖炉が燃えている前で、揺り椅子に掛けながら、おじいさんから昔話をきかされているような暖かい気持ちになるのです。

 この曲だけでなく、なぜかバラードの1番も、ワルツも音が暖かい。ショパンだけでなく、ドビュッシューの「雪がふっている」ですら暖かく感じる。

 またフランソワは時々演奏中に悪魔が乗り移ったかのような、天才的デーモニッシュプレイを披露してくれて、しばし興奮させてくれる。 

 特にバラードの1番の4拍子部分、劇的カタストロフィーのクライマックスの演奏は、だれよりも早いテンポで弾きこなしており、まさにショパンが楽譜で指定したpresto con fuoco(とても速く火のように)を忠実に再現している。

 このような演奏は素直に聴衆を熱狂させてくれて、エンタテイナーでもあるだ。 残念ながら私はライブ演奏を聴いていないが、デーモニッシュな演奏の終わりにポロリとミスタッチして、終わった後、恥ずかしそうにおじぎをし、聴衆の笑顔と盛大な拍手でステージを後にするというのだ。

 ただし、まったく残念なことには、レコードのEMIの録音が良くないことであり、彼にとっても不幸なことであった。 

 そのフランソワが1970年に死去していたことを後で知ったときは、ショックで茫然としてしまった。 リパッティといいフランソワといいフランスの天才的ピアニストはなぜか夭折してしまう。

 

|

« 2001年宇宙の旅  HAL | トップページ | 「ウルトラQ」でのミス »

ピアノ」カテゴリの記事

コメント

昨晩コメント入れたのにないや。一日経てば地球を一周して入っていると期待したのに。携帯からだとやばいですね。

投稿: ロンリー・マン | 2008年1月23日 (水) 21時27分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/412224/7551105

この記事へのトラックバック一覧です: 暖かい、サンソン・フランソワの演奏:

« 2001年宇宙の旅  HAL | トップページ | 「ウルトラQ」でのミス »