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リヒテルの素顔

 NHKBSにて「リヒテル謎のピアニスト」というフランスで制作されたドキュメンタリーが放送された。 リヒテルは気難しいことで有名であり、さらにカメラ嫌いということであったから、彼へのインタビューで進められる映像は貴重であり、ピアノファンにはありがたいことである。 

 彼は1997年に死去しており、鮮明なビデオテープの映像で拝見できる彼の素顔と声は、いまだどこかに生きているかのようである。 インタビュー中の彼は、地味なシャツの普段着で、質素な机にすわり、彼の後ろの壁も単なるベニアの板のような造りである。 凡庸なドュメンタリー演出家だと、こういうカットは、必ずびっしりと蔵書が並んだ本棚をバックにするはずだ。あるいはリヒテルがそうするよう望んだのかもしれない。

 すでに老齢の彼は、俳優でいえば、笠置衆に似ており、声も弱弱しい。 だが記憶力はかくしゃくとしており、時々過去の愉快なエピソードをいたずらっこのような顔で話してくれる。 これを見たら彼へのイメージはだいぶ変わってくるはずだ。 インタビューで見せる彼の素顔は、もう町内の敬老会にいる普通のじいさんである。 

 やはりソ連にいたということもあり、愉快なことばかりではなく、時には当局から尾行されたり、肉親の尋常でない不幸に遭遇しているが、当時のソ連人の芸術家としては、まだラッキーなほうではなかったか。スターリン時代は、ちょっとした発言や、演奏曲目では、へたをすると生きては還れない収容所行きとなりかねない状況だったので、世渡りは案外上手だったのだ。 やはり、芸術家は政治と思想と経済には、すくなくとも表向きには興味のない素振りをしたほうが無難である。 そして彼はそうした。

 映像には時々、彼の演奏フィルムが流れ、大変参考になった。ショパンの練習曲作品10の4の演奏は、私が聴いたものでは、かってないほど一番早いテンポの演奏であった。まるで、シフラの弾くリストの「半音階ギャロップ」に匹敵するモーレツ演奏である。 プロコフィエフのコンチェルトやソナタなども迫力ありました。 ゆっくりしたテンポのシューベルトのソナタも味わいがありましたね。 

 彼の弾くシューベルトには、グールドも感動したと、本人のインタービューがありました。 グールドの普段の態度は、弾いてる時ほど変人ではありませんぞ。

 貴重な映像では、彼の師匠であるゲンリックネイガウスの姿を見せてくれたことであり、彼の演奏シーンとリヒテル家のクリスマスパーティに呼ばれた際の普段着の姿を見ることができました。 

 傑作はリヒテルが映画出演したシーンで、それは「グリンカ」というロシア映画でのリストの役で、結構うまく芝居していましたね。役者ですね。 たぶん彼の30代後半の頃の撮影だと思いますが、若ハゲでしたから、リストのあの「チビまる子」的ヘアスタイルのかつらをかぶり、片足をピアノの椅子の下の奥までつっこみ、リストの派手で超絶的かつカリスマ的演奏を再現していました。 なんたって本当に弾いていますからね。 

 そのリヒテルが死んでもう10年たちました。 番組の中で言っていた彼の言葉で印象に残ったのは 「私はピアノは選ばない。その会場にあるものを使う。ひどいピアノで最高の演奏をしたこともある。」 でした。

 

 

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