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2001年宇宙の旅 The jupiter mission

ハチャトリアンのクールな弦楽器曲が流れるなか、ディスカバリー号が船首からゆっくり現れてきますね。私がこの映画の中でもっとも好きなシーンです。あの宇宙船の存在感といったら、もう匹敵するものはありません。ゴジラがシェーしている時分の映像ですよ。 この宇宙船の見せ方は、以後のSF映画に大きな影響を与えています。 この映画の予告編では、もうこのシーンを見せてしまっていて、もったいないですね。ヒチコック式に秘密にすればよかったと思います。たぶんキューブリックもこの予告編には反対したのではないか。

 この映画を野次馬的に観にきた入場者は、この部分からダレてきているはずです。 類人猿のとき現れた石柱が、進化した人類の前に再び出てくる。それは分かる。 そしてまた同じように石柱にタッチしたら、ノイズが発生し、いきなり宇宙船が現れる。 これはどういうことだ。 お客の頭の上にクエスチョンマークがでているのが感じられました。

 最終編集でカットされた、この部分のナレーションを抜粋すると。

「 しかしいま、深宇宙を監視する装置が何か奇妙なものを記録した---かすかな、だがまたたきなき乱調のさざなみが太陽系をよぎっている。 これまで観測された自然現象とは全く違う現象だ」

とあり、若干の納得させる要素があります。

 ディスカバリー号を分析してみましょう。 撮影に使用されたミニチュアは二つあり、この登場シーンでは、全長50フィート(約15.3メートル)、船首球形部分は6フィート(約1.8メートル)です。もうひとつは遠景撮影用の15フィート(約4.6メートル)です。 ジャイアントモデルは窓にコクピット内を投影するため、必然的にあのサイズになったとのこと。 撮影はやはり、ロングフォーカスのためカメラの絞りを深くし、1コマ数秒の露光とし、レールに置かれたカメラは、1時間数フィートという割合で動いています。したがって、このシーンの撮影には足掛け二日間ほどかかっているはず。 

 この宇宙船のデザインでは、当初クラークの意見により、原子力エンジンの放熱のため、後部機関部分に大きなフィンが2枚つけられていましたが、翼のように見えるという、キューブリックの指摘により、削除されました。 さらにモデルが完成した段階で、真ん中の骨のような推進剤・貨物モジュールの周りに、船首から、機関部にかけて10本以上のチューブが設置されていましたが、これも最終的に撤去されました。

 原子力エンジンは、すでに50年ほど前に実験でも成功している方式ですが、大気圏内での使用は言語道断であり、宇宙空間のみ有効の推進方法です。ただ推進剤だけは必要であり、ディスカバリー号は「骨」の部分に貯蔵されている設定ですが、木星到着時の制動と帰還時のロケット噴射のためにあの部分の容積で足りるとは疑わしい。 私だったら、外部に大きなタンクを設定します。事実、デザインのスケッチ段階では、推進剤タンクが付いているものがあります。

 指令船モジュールは内部に遠心居住区がありますが、よく指摘されていることは、ポッドのブロック、ハルのブロック、エアロックの構造を考慮すると、外から見た全体の容積の推察では、この遠心ブロックの存在は無理であるということです。 これもオオメニミテネということでしょう。

 さて遠心ブロックを回転させるのはいいが、当然物理的に回転のトルクを打ち消す構造が必要であり、もう一つ逆回転の遠心ブロックがあれば解決するが、なおさらあの大きさと容積では不可能ですね。 どこか別の場所にフライホイールがあるのかもしれません。 映画「2010」ではそのメカが恐らく機能停止しており、宇宙船全体が縦てに回転してしまっていましたが、あの回転方向はちょっとオカシイです。

 ボーマンが遠心ブロックでランニングしていますね。引き続きハチャトリアンの音楽が流れていますが、撮影時はショパンのワルツをかけたそうです。たぶん長調の明るい曲でしょうね。だいぶ雰囲気が変わってしまいます。 さてボーマンは居住区の回転のどちらの方向に走っているのでしょうか。もし同回転だったら、彼の体重は増し、逆だったら軽くなるはずです。映画を改めて観て見ると、どちらにも走っているようにみえます。どうやら方向転換しているようです。 でもあの回転数で1Gが再現できるだろうか。 少々遅いような気がするが。さらにあの回転直径では、足の部分と頭とには重力に差が発生し、頭に血が昇るのではないだろうか。

 重箱スミツツキはこれまでとし、さて、あの走るボーマンを下から仰ぐ撮影はどうやったか。 私は回転中心部分から、固定されたクレーンが下まで伸びており、そこにカメラが設置されているものだと思っておりました。

 違いました。なんと床の真ん中に狭いスリットがあり、薄い頑丈な鉄板をそこから突き出し、カメラを乗せて撮影したのです。よく見ると、たしかにあのシーンの床の中央に黒いスジがあります。 あの隙間の両側には鉄板が通った後すぐ閉じるゴムが接着されているのです。

 「なんということでしょう」。 遠心モジュールは、真ん中から真っ二つに分かれているのです。 ということは、かなり複雑な駆動方式であり、事実、二つの大きな車輪の隙間を保ち、回転速度をシンクロさせるのは、役者の安全にもかかわる大変な撮影だったそうです。

 

参考資料: メイキング・オブ・キューブリック「2001年宇宙の旅」 

          ジェローム・アジェル編 山川コタチ 私訳

         未来映画術「2001年宇宙の旅」 

          ピアース・ビゾニー著 浜野保樹・門馬淳子 訳  

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コメント

はじめまして。おじゃまします。
特撮の記事すごいですね!
自分も映画はSFから入ったので、特撮大好きおやじです。

高校の時買った中子真治さんの「SFXの世界?」をまた読みたくなりました。
あの頃が、本格的な、特殊メーキャップやSFXの始まりの時代だと思っています。
ディック・スミス、リック・ベイカー・・・。彼らの当時の公開作はどれも驚きの連続でした。
これからもよろしくお願いします!

投稿: つのきち | 2007年8月11日 (土) 00時50分

つのきちさん。ようこそ。私の特撮入門は、ウルトラQ、フランケンシュタイン対バラゴン、宇宙大戦争と、円谷ものでした。その後アーウィンアレン物へと変わり、2001へとつながって行きました。1970年代後半からのSFXブームでは様子見という感じで、素直に楽しみました。 ただしそのころの便乗邦画SFには今だに怒り心頭です。 その反発をいまブログで表しています。 中子さんは、ご存知かもしれませんが、高山でユニークなオモチャのお店をオープンされています。 ぜひまた来てください。

投稿: スタンリー | 2007年8月11日 (土) 07時47分

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